9月2日、GitLabが「GitLab's internal playbook to foster AI-fluent technical teams」と題した記事を公開した。エンジニア向け上級ワークショップでは参加者の87%が「すぐに使える知識を得た」と回答し、AI Ladderイニシアチブ開始からわずか1か月で社内AIコーディングツールの日次利用が22.3%増加した——これが、GitLabが社内で実践したAI人材育成戦略の成果だ。
GitLabは約2,000名が完全フルリモートで働くDevSecOpsプラットフォーム企業であり、地理的に分散した大規模組織でのAI展開という難題に正面から向き合ってきた。同じAIツールを与えても、チームによって成果は大きく異なる。GitLab社内でも同様の現象が起きた——ツールへのアクセスは全員に提供されていたにもかかわらず、一部のエンジニアはすぐに効果的なワークフローを構築した一方、入り口すら見つけられないメンバーもいた。
この経験から同社が得た結論は、「ツールの提供だけでは不十分で、AIに何を任せるかを判断する能力(AIフルエンシー)の育成が同等に重要」というものだ。ここで言う「AIフルエンシー」とは、特定ツールの操作習熟にとどまらず、AIの出力を批判的に評価し、どのタスクをAIに委ねるべきかを自律的に判断できる能力を指す。
ガバナンスは「集中」でも「分散」でもなく、ハイブリッドで
組織としてAI活用を推進する際、最初に問われるのはガバナンス構造だ。GitLabは2つの極端な選択肢を検討した上で、どちらも採用しなかった。
- 完全集中型:承認フローがボトルネックになり、現場が迂回策を取るリスクがある
- 完全分散型:取り組みが断片化し、ガードレール(安全規制)の一貫性が保てない
最終的に選んだのはフェデレーテッドモデル(連邦型)と呼ぶハイブリッド構造だ。中央による統制と現場の自律性を両立させるアーキテクチャで、3つのレイヤーで構成される:
- Enterprise AI(中央ガバナンス):セキュリティ基準と主要AIベンダーの契約を一元管理。全ツールはこのガードレールの上に乗る
- AI Transformation Owner(機能別戦略):各部門に配置されたシニアリーダーが、現場に即したAI活用戦略を担う
- AI Champions(現場の伝道師):各部門内でいち早く実験し、チームメンバーをサポートするコミュニティ
「社内の運営原則は『Speed with Quality』だ。このガバナンスモデルはそれを体現している——コーポレートガバナンスへの準拠を保ちながら、チームが素早く高品質に動ける」——Manu Narayan, CIO
週次でリリースされる新AIツールへの対応を想定した柔軟な設計が、このモデルの核心にある。
育成の核心:「今日のツールの使い方」ではなく「判断力」を教える
ツール展開と並行して、Talent Development(人材育成)チームとEnterprise TechnologyチームがDay 1から同じ部屋にいたことが、この取り組みの特徴だ。AI導入は技術的な問題であると同時に、行動変容の問題でもあるからだ。
両チームが共同で開発したのが「AI Literacy Ladder(AIリテラシーラダー)」という自己評価ツールだ。メンバーが現在のAIフルエンシーのレベルを自己申告し、その結果に応じて役割別の学習パスが提示される仕組みになっている。ビギナーから上級者まで段階的なレベル定義が設けられており、各レベルに対応したコンテンツと実践課題が紐づいている。エンジニア向けには次のような実務に直結したカリキュラムが用意された:
- コード計画・レビュー
- 壊れたパイプラインの修正
- セキュリティの修復作業
GitLabはAI活用に関する知見を公式ブログでも継続的に発信しており、AI Literacy Ladderはその実践的な延長線上に位置づけられる取り組みだ。
「目標は今日のツールの使い方を教えることではなく、AIが進化し続けても自信を持って適応できる判断力と持続的なスキルを育てることだった」——Rob Allen, Chief People Officer
数字で見る効果
取り組みの成果として、記事では以下の数字が示されている:
- エンジニア向け上級ワークショップで、参加者の87%が「すぐに使える知識を得た」と回答
- 非技術職向けワークショップでは、95%が「2週間以内に学んだことを適用する」と回答し、92%がAIツールへの自信が上がったと報告
- AI Ladderイニシアチブ開始から1か月で、社内の主要AIコーディングツールの日次利用が22.3%増加
成果の測定は「到達率(Reach)」「継続率(Depth)」「実務への適用(Applied value)」の3軸で評価している。単一指標だけでは実態を見誤るため、必ず3つを組み合わせて判断する方針だ。参加率や満足度スコアだけで「成功」と見なさない点が、この測定設計の重要な特徴といえる。
他組織が参考にできる6つの教訓
GitLabが蒸留した教訓は以下の6点だ:
- Day 1からEnterprise TechnologyとTalent Developmentを同席させる
- ガバナンスをAI導入のスピードに合わせて設計する——週次でリリースされる新ツールに対応できる柔軟さが必要
- 画一的なカリキュラムではなく、各人の現状に合わせる
- AI活用支援を「生きたプロダクト」として継続的に更新する
- ツールの操作ではなく、「何をAIに任せるか」という判断力を育てる
- 完璧な戦略を待たずに始める——小さな成功を積み上げながら反復する
特に5番目の「判断力を育てる」という観点は、単なるツール研修との最大の違いだ。AIが返してきた出力を批判的に評価する能力を、GitLabは「フルエンシー」の中心に置いている。完全フルリモート・全員分散という組織環境でこの規模の展開を実現した事例として、同様の課題を抱える技術組織にとって参考になる部分は多い。
詳細はGitLab's internal playbook to foster AI-fluent technical teamsを参照していただきたい。




