9月3日、Morgan Taylorが「Hidden workforce behind AI spans 160 million workers, many in the Global South」と題した記事を公開した。この記事では、AIシステムを陰で支える1億6000万人のデータ労働者の実態と、その多くがグローバルサウス(※)の低賃金労働者であるという構造的問題について詳しく紹介されている。社会学者のAntonio Casilliが指摘する通り、AIは「人間の労働を代替する自動化技術」ではなく、「困難で低賃金の仕事を不可視化しながら再編する仕組み」である——この視点は、日々AIを当たり前のように使う私たちが見落としている現実を突きつけてくる。
※グローバルサウス:主にアジア、アフリカ、中南米などの低・中所得国を指す総称。
AIは「自動化」ではなく「労働の再編」である
社会学者のAntonio Casilli(アントニオ・カシッリ)は、8月下旬のDemocracy Now!のインタビューで、商業AIの裏に存在する大規模な人力労働を指摘した。Casilliは『Waiting for Robots: The Hired Hands of Automation』の著者であり、ドキュメンタリー『In the Belly of AI』の共同制作者でもある。
Casilliの主張の核心はシンプルだ。チャットボットや画像生成AI、レコメンドシステムといった「自律的に動いているように見える」AI製品は、実際にはデータアノテーション(データへのラベル付け作業)やコンテンツモデレーション(有害コンテンツの審査・除去)を行う人間によって維持されている。
そしてこの構造は意図的に隠されている、とCasilliは言う。
「彼らはAIを生産する企業によって意図的に隠されている。なぜなら彼らこそがAIの秘密の原材料だからだ。」
世界で1億6000万人がこうしたデータ労働に従事しているとCasilliは述べている。これはAIを「人間の労働の代替」と見るよりも、「困難で低賃金の仕事を不可視化しながら再編する仕組み」として捉えた方が実態に近い、という視点だ。
労働環境の実態:ギグワーク的な不安定さ
データ労働者の多くは、フリーランサーやギグワーカー的な形態で働いており、雇用保護が薄く、報酬も低い。消費者や企業がAIツールを日常的に使いながら、その背後にある労働の連鎖が見えにくい構造になっている。
この問題は、AIが「将来の雇用への脅威」として議論される文脈とは別次元で進行している。すでに何百万人もの人々の労働条件を変えており、その多くが低・中所得国に集中しているという点が見落とされがちだ。
組織化の動きと求められる透明性
一部のデータ労働者は組織化を始め、自分たちの役割に対する認知と待遇改善を求めている。具体的な要求としては、公正な賃金、雇用保護、平等な扱いが挙げられている。
不可視化された労働は搾取されやすい。透明性が高まることで、基準改善への圧力が生まれるという構図だ。
より広い文脈:インフラ・環境・社会的信頼
このAI労働問題は単独で起きているわけではない。記事では以下のような関連する動向も紹介されている。
- AIへの一般市民からの反発が、雇用・安全保障・資源利用をめぐって高まっている
- Big Techによる大規模なAIインフラ投資が電力グリッドの許容量を超える速度で拡大している
- データセンターのエネルギー需要に対応するため、電力会社が前例のない契約を結びつつある
データ労働者の問題は、こうしたインフラ・環境・社会的信頼への負荷と並走している。AIの恩恵を享受する企業オーナーが巨大な財務的報酬を得る一方で、実際のコストを誰が負担しているかという問いは、今後より無視しづらくなる。
詳細はHidden workforce behind AI spans 160 million workers, many in the Global Southを参照していただきたい。




