9月2日、InfoWorldが「Google brings predictive AI to BigQuery without the ML training」と題した記事を公開した。GoogleがBigQueryに追加した新機能により、モデルの訓練・チューニング・デプロイを一切行わずに、SQLだけで分類・回帰予測が完結するようになった。
SQLを書くだけで予測が完結する——それが最大のインパクトだ
従来、BigQuery上のデータに対してML予測を行おうとすれば、データをエクスポートし、Vertex AIや外部のMLプラットフォームでモデルを訓練・チューニングしてデプロイする、という一連の工程が不可欠だった。BigQuery MLはSQLからモデルを呼び出せる仕組みを提供しているが、それでもモデル定義・訓練・管理という手順は残る。
TabFMはその前提をひっくり返す。訓練済みの汎用モデルがBigQuery側に内蔵されており、ユーザーはSQL関数を呼ぶだけで予測結果を得られる。データを外に出す必要はなく、モデルを管理する必要もない。
TabFMとは何か——2つのSQL関数で動く基盤モデル
GoogleはBigQueryに、内部的に「TabFM(Tabular Foundation Model)」と呼ばれるモデルを統合した。テーブルデータに特化した基盤モデルであり、新たに追加された2つのSQL関数を通じて利用する。
記事中でGoogleの担当者(Jena氏)はその意義をこう説明している。
「SQLを知っている人なら、BigQuery上にすでにあるテーブルに対して、分類や回帰の予測を直接生成できる。モデルの訓練も、チューニングも、デプロイも不要だ。データを別のMLプラットフォームに移す必要もないため、ガバナンスの簡素化と、並行プラットフォームを運用するインフラコストの削減にもつながる。」
従来のMLワークフローでは、アナリスト・データサイエンティスト・MLエンジニアという3つのペルソナをまたいだ分業体制が必要だった。Nord-IQ Researchのプリンシパルアナリスト、Manoj Chandra Jha氏はこれについて、「TabFMはその多ペルソナワークフローをシングルなSQL呼び出しに集約する。ヘッドカウント要件を削減できる可能性がある」と述べている。
既存のGoogle MLサービスとどう違うのか
TabFMの位置づけを理解するには、Googleの既存サービスとの対比が役に立つ。
- BigQuery ML: SQLでモデルを定義・訓練・評価・予測までBigQuery内で完結できるが、
CREATE MODELによるモデル訓練ステップが必要。ユーザーがモデルを管理する。 - Vertex AI / AutoML: GUIやAPIで高精度なモデルを構築できるが、BigQueryの外にデータを持ち出す必要があり、モデルのデプロイ・エンドポイント管理が伴う。
- TabFM(今回): モデル訓練・管理ゼロ。BigQuery内のテーブルにSQL関数を呼ぶだけで予測が返る。汎用の基盤モデルがホストされているため、ユーザー側の準備コストが最も低い。
最大の差異は「モデルをユーザーが一切持たなくてよい」点だ。精度よりスピードと手軽さを優先するユースケース、あるいはML専門人材がいないチームに向いた選択肢といえる。
実務上のインパクト——どのチームに効くか
この変更が最も効くのは、BigQuery環境にデータがすでに存在しており、ML専門人材を持たないアナリストチームだ。
- データを外部のMLプラットフォームに転送するパイプラインが不要になる
- モデルのバージョン管理・再訓練・モニタリングといったMLOps工数がゼロになる
- SQLを書けるアナリストが直接、分類・回帰の予測を実行できる
- 並行するMLプラットフォームのインフラコストが消える
データ量が大きく、かつMLエンジニアリングへの投資を抑えたい企業にとって、コスト削減の観点でも注目に値する。
制限と注意点——万能ではない
記事は同時に、TabFMが従来のMLワークフローをそのまま置き換えられるわけではないと明確に指摘している。元記事によれば制限事項が複数存在するとされており、導入前に確認が必要だ。
モデルを訓練せずに予測を行う構造上、以下の点は別途評価が必要になるケースがある。
- 特定ドメインや業界固有のデータに対する予測精度の担保
- チューニング済みの専用モデルと比較した場合の再現性・安定性
- 利用できるデータ型・テーブル構造の制約
汎用基盤モデルの特性として、精度面でドメイン特化モデルに劣るケースがあることは念頭に置くべきだ。高精度が求められるミッションクリティカルな予測タスクでは、Vertex AIや専用モデルとの使い分けを検討するのが現実的な判断になるだろう。
まとめ
BigQueryにSQLだけで予測AIを呼び出せる仕組みが加わったことで、MLの専門知識を持たないアナリストでも予測タスクを完結できる環境が整いつつある。BigQuery ML・Vertex AI・AutoMLといった既存サービスとは「モデルをユーザーが管理しない」点で明確に異なるポジションを持つ。ただし、汎用モデルゆえの精度上の限界や複数の制限事項が存在するため、「どのユースケースに使うか」の見極めが導入判断の核心になる。
詳細はGoogle brings predictive AI to BigQuery without the ML trainingを参照していただきたい。




