9月15日、MIT Technology Reviewが「What must happen for AI's trillion-dollar gamble to pay off」と題した記事を公開した。この記事では、AIインフラへの兆ドル規模の投資が回収できるかどうか、その条件と財務リスクについて詳しく論じられている。
収益はまだ支出の「6分の1以下」
AIインフラ投資の規模感を数字で示すと、議論の構図が鮮明になる。
ハイパースケーラー(Alphabet、Microsoft、Amazon、Meta、Oracle)は今年だけで約7,500億ドルをAIデータセンター建設に投じている。一方、今年のAI関連収益は1,500億〜2,000億ドル程度にとどまる見込みだ。MITスローン経営大学院教授のGary Gensler氏(元SEC委員長)はこう指摘する。
「支出に見合う収益がまだない。それは事実だ。問題は、この投資が将来回収できるかどうかだ」
さらにAlphabetは直近四半期で約1,200億ドルの売上を計上したにもかかわらず、AIインフラ支出に飲み込まれ、フリーキャッシュフローは59億ドルの赤字に転落したと元記事は伝えている。Googleが2004年にIPOして以来初の赤字だという。
「損益分岐点に達するには生産性を2.7倍にする必要がある」
ペンシルベニア大学ウォートン校の金融学教授Jessica Wachter氏(元SEC主任エコノミスト)は、AIの将来予測という不確実性を排除し、純粋な会計的アプローチで問いを立てた。2027年までのハイパースケーラーの支出累計は約1.1兆ドルに達すると推計されるが、2030年までに損益分岐点(資本コストと15%リターン、資産の減価償却を含む)に到達するには、AI企業自体の生産性を2.7倍に引き上げる必要があるという。
「不可能ではないが、1990年代半ばから約10年かけて起きたITブームと同等の経済成長を数年に圧縮しなければならない」とWachter氏は述べる。もしこれが実現しなければ「利払いが滞り、破産リスクが生じる」。研究論文では、生産性ブームが「実現しなければ、今回の建設ラッシュは史上最大の資本誤配分になる」と結論付けている。
「パーレイ賭け」:3つの条件のどれか1つが外れると負け
Gensler氏はこの状況を「パーレイ賭け」と表現する。競馬などで複数のレースを串刺しにして全部当てないと配当が得られない賭けのことだ。AIインフラ投資が回収されるには、以下3つの条件が同時に成立しなければならない。逆に言えば、どれか1つでも欠けた時点でパーレイは外れる。
- ハイパースケーラーが巨大収益を生む — コロンビア大学のStijn Van Nieuwerburgh教授の試算では、2032年までに年間約3.7兆ドルの収益が必要になる
- AIが経済全体の生産性を押し上げる — 顧客企業がAIへの支出を正当化できるだけの業績改善を実感しなければ、やがてAI離れが起きる
- 高価なフロンティアモデルが安価な代替モデルに駆逐されない — DeepSeekのような低コストモデルが普及すれば、ハイパースケーラーの収益基盤が崩れる
MIT経済学者でノーベル経済学賞受賞者(2024年)のDaron Acemoglu氏はこう断言する。「生産性向上が得られなければ、人々はいずれAIに幻滅し、投資も収益成長も止まる」
ただし、現時点では経済統計上、AI由来の生産性向上はほぼ確認されていない。米・英・独・豪の約6,000人の経営幹部を対象にした最近のスタンフォード大学の調査では、約90%が過去3年間で生産性向上を体感していないと回答。一方、次の3年では平均1.45%(米国では2.25%)の向上を期待している。
借金が「見えないリスク」として経済全体に広がる
当初、ハイパースケーラーは自社の蓄積資金でデータセンターを建設していた。リスクは株主の問題にとどまっていた。しかし今は違う。Morgan Stanleyの試算では、2025〜2028年にかけてハイパースケーラーが投じる2.9兆ドルのうち半額超が外部資本(借入)で賄われる見込みだ。
その構造は複雑化している。MetaはルイジアナのHyperionデータセンター(当初100億ドルの計画が300億ドルに膨張)の80%の持分を、問題を抱えるプライベートクレジット会社Blue Owl Capitalに譲渡し、合弁会社「Beignet」を設立。Metaは同社からリースバックする形でデータセンターを使い続けるという複雑な仕組みだ。
コロンビア大学のVan Nieuwerburgh教授はこう警告する。「多くの金融機関が直接・間接にデータセンターのリスクを抱えている。貸し手として、あるいは保証人として。人々は自分が保有していることすら気づいていない。年金基金の奥深くにある。最終的には生命保険の裏付けになっている。リスクは見えないところに分散している」
GPUの陳腐化という「時限爆弾」
もう一つの構造的問題が、GPUの陳腐化だ。データセンターのコストの約60%をGPUチップが占めるが、その性能は約2年ごとに倍増するペースで進化し続けている。つまり、2025〜2026年に稼働するデータセンターのオーナーは、2030年代に競争力を維持するためにさらに数十億ドルを次世代チップに投じなければならない。
プリンストン大学のMihir Kshirsagar氏は、投資を怠ったデータセンターが「廃墟」になり、「全国に散らばる座礁資産」になりかねないと指摘する。この懸念は、1990年代末のITバブル崩壊後に光ファイバーケーブルや通信インフラが大量に「ダークファイバー」として放置された歴史とも重なる構造的リスクだ。
詳細はWhat must happen for AI's trillion-dollar gamble to pay offを参照していただきたい。




