9月15日、Help Net Securityが「Your employees are already using AI tools you never approved」と題した記事を公開した。OneTrustの「2026 AI-Ready Governance Report」をもとに、企業のAI活用が急拡大する一方でガバナンス整備が大幅に遅れている実態を伝えている。なかでも際立つのが、AIエージェントの未承認行動インシデントを約半数の組織が経験しているという事実と、**AIライフサイクル全体での説明責任を定義できている組織がわずか5%**という数字だ。「使っているが、管理できていない」という構造的矛盾が、調査の随所から浮かび上がる。
承認なしのAIツールを使う従業員たち
33%の回答者が「承認済みのオプションやプロセスが迅速に提供されなかったため、従業員が未承認のAIツールを使用した」と回答している。
これはいわゆるシャドーAIの問題だ。かつて「シャドーIT」として議論されてきた構図と本質的に同じだが、AIツールの普及速度と影響範囲が桁違いに大きくなっている点が従来と異なる。シャドーITの文脈では、野良インストールされたSaaSが問題の中心だった。シャドーAIでは、従業員が生成AIや自律エージェントを業務に組み込んでしまうため、データ漏洩・誤情報・コンプライアンス違反といったリスクが即座に生じうる。
承認プロセスが遅いほど現場はチャネル外でツールを探し始め、「導入後に初めてレビューが行われる」後追い対応が常態化する。この構造は、EU AI Actが義務づけるリスク分類・事前評価の枠組みとも真っ向から衝突する。高リスクAIの運用には事前のコンフォーミティ評価が必要であり、現場主導の野良導入はその前提を根底から崩す。
AIの導入は進んでいるが、ガバナンスは追いつかない
調査の全体像を見ると、74%の組織がチームや部門レベル以上でAIを実際に活用している。残りも計画・評価・実験段階にあり、「AIをまったく使っていない」と答えたのはわずか1%だ。
一方でガバナンスの成熟度には大きなばらつきがある。「設計段階からガバナンスを組み込んでいる」という最高水準を達成しているのは17%のみ。多くの組織は「反応的・断片的」あるいは「定義はされているが遅く手動」という状態にある。
ここで重要なのは、この「遅さ」自体がリスクを生む連鎖だという点だ。ガバナンスが遅いから承認が下りない→現場がシャドーAIに走る→インシデントが発生する→事後対応でさらにリソースを消費する、というループが回っている。
ガバナンス活動の内訳では、リスク分類とインパクト評価が最も一般的で、次いで従業員の利用制限、ポリシー文書化、インシデント管理と続く。個別の能力への自信は高く、約75%の回答者がガバナンス活動を遂行できると答えているが、「最高レベルの自信がある」と答えたのは29〜33%にとどまる。部分的な取り組みへの自信と、全体を統合するガバナンスの欠如が同居している。
OneTrustのChief Innovation OfficerであるBlake Brannonは次のように指摘している。
「ガバナンスはこれまで、システムが何をするか事前に把握することを前提としてきた。しかしAIはより速く、量も格段に多く、同じリクエストでもコンテキストによって有益にも有害にもなりうる。人間が一つひとつ判断を下していた時代は静的なルールで十分だった。今は、判断がランタイム自体に組み込まれ、AIが行動する瞬間に決定と執行が行われなければならない」
エージェントの採用がガバナンスを先行している
AIエージェント(自律的にタスクを実行するAIシステム)の利用は急速に広がっている。87%の組織がAIエージェントの利用を奨励しているが、「定義されたガバナンスと管理を整備した上で奨励している」のは47%にすぎない。残りの40%は「ガバナンスを整備しながら並行して奨励している」状態だ。
この数字が前節のシャドーAI問題と直結している。組織が公式にエージェントを奨励しながらもガバナンスが未整備であれば、従業員は「承認されている」と解釈して野良利用を拡大させる。奨励と統制のギャップが、インシデントの温床となる。
実際、過去1年間にAIシステムやエージェントが未承認の行動をとったインシデントを経験したと答えた回答者は約半数に上る。自律的・エージェント的なワークフローは、ガバナンスやリスクレビューによって最も頻繁に遅延・停止・複雑化するAI施策としても挙げられており、「管理しようとするほど止まる」というジレンマが生じている。
インシデント対応として最も多く取られた措置は、従業員トレーニングとAIリテラシー向上で、次いで正式なAIレビュー・承認プロセスの整備、モニタリング強化が続く。
調整不足と予算増加
ガバナンス活動の平均実施数は4件で、個別能力への自信も高い。しかしAIライフサイクル全体で調整と説明責任が定義されていると答えたのはわずか**5%**だ。各部門が個別にガバナンス活動を実施していても、それらが有機的につながっていない。部分最適の積み重ねが、全体最適の欠如を覆い隠している構図といえる。
96%の組織で、少なくとも1つのAI施策がガバナンス・リスク・レビュー要件によって遅延・停止・複雑化したと報告されている。主な原因はデータの品質・アクセス・プライバシー・セキュリティの問題だ。ガバナンスが「AIを止めるもの」として機能してしまっている現状が、現場のシャドーAI化をさらに促進するという皮肉な循環が成立している。
それでも予算は増える方向にある。98%の回答者が次の会計年度にAIガバナンス技術への予算を増やす予定と答えており、80%が12カ月前と比べAI関連リスク管理に費やす時間が増えたと回答している。OneTrustのようなAIガバナンスプラットフォームへの需要が高まっている背景には、こうした組織的な危機感がある。
詳細はYour employees are already using AI tools you never approvedを参照していただきたい。




