9月15日、RuntimeWireが「Radical Ventures secures over US$1B at first close for late-stage AI fund」と題した記事を公開した。カナダのAI特化VCであるRadical Venturesが、レイトステージ投資専用ファンド「Radical Breakouts Fund」の第一回クローズで10億ドル超のコミットメントを確保し、カナダ史上最大のVCファンドとなった。カナダの大手年金基金・金融機関が名を連ねるこのファンドが問いかけるのは、シンプルかつ根本的な問題だ——「カナダ発の世界的AI企業が生み出す価値は、なぜ米国のVCに渡ってしまうのか」。
カナダの年金マネーがAIレイトステージへ動く
Radical Venturesの共同創業者Jordan Jacobsが立ち上げた「Radical Breakouts Fund」が、第一回クローズで10億ドル超のコミットメントを確保した。ファンドは「マルチビリオンドル規模」とも表現されているが、最終的な調達目標額は非公開だ。
出資者として名前が挙がっているのは、PSP Investments、CPP Investments、HOOPP、TD Bank Group、BMO Financial Group、CI Global Asset Management、OPTrustといったカナダの大手年金基金・金融機関だ。PSP InvestmentsはRadical Venturesの最初の機関投資家向けファンドからアンカー投資家として関与しており、CPP Investmentsとの関係は2019年まで遡る。
このファンドが特異なのは、その構造的な問題意識にある。BDCのレポートによれば、カナダ国内で5000万ドル以上の調達ラウンドにおいて、資本の80〜90%は海外投資家が供給してきた。カナダの研究機関や創業者が世界競争力のあるAI企業を生み出しても、グロースステージ以降の資金はほぼ米国のVCに頼らざるを得ず、生み出された価値も国境の南に流れていく構図だ。
Jacobsはこの状況を端的に表現している。
"For decades that meant our best companies looked to the United States to fund their most important years, and much of the value they created went with them."
レイトステージへの拡張——なぜ今か
Radical Venturesはこれまで、Cohere、Waabi、World LabsといったAI企業への初期投資・インキュベーションで実績を積んできた。共同創業者のJordan JacobsとTomi Poutanen(最高執行責任者)は、2018年にLayer 6 AIをTD Bank Groupに売却した後、共にVector Instituteの設立にも関わっており、カナダのアカデミア・企業・創業者ネットワークへの直接的なパイプを持つ。
Breakouts Fundはその戦略の延長線上にある。初期投資で関係を築いたポートフォリオ企業が成長ステージに差し掛かった際、これまでは大手米国マネージャーに後続ラウンドを委ねるしかなかった。専用の後期ステージ資金プールを持つことで、その関係を自社内で継続できる。
ポートフォリオには、Jeff DeanらGoogle出身研究者が創業したDiscovery Loopも含まれる。Discovery Loopは、AIを活用して科学的・技術的な発見プロセス自体を自動化・加速することを目指す研究ベンチャーであり、創薬や材料科学などの分野における仮説生成・実験設計の効率化を事業の核に据えている。RuntimeWireの報道によれば、Radical VenturesはKhosla Venturesと共同でDiscovery Loopの初期ファイナンシングをリードし、Jeff DeanはCEOに就いている。著名な技術系創業者が設立初期にRadical Venturesを選び、その後のラウンドにも同ファンドが参加し続ける——これがLPへのセールスポイントだ。
カナダVC市場の文脈
ファンドの規模感を把握するには、市場背景が必要だ。KPMGの2026年Q1 Venture Pulseレポートによれば、カナダのVC投資額は2025年Q4の39億ドルから、2026年Q1には約10億ドルへと急減している。その中でWaabiの7億5000万ドルのシリーズCが突出した大型案件となった。
四半期の投資実行額とファンドコミットメントは異なる指標だが、Radical Venturesの第一回クローズ額が、カナダVC市場全体の1四半期分に相当するという事実は、このファンドの規模感を端的に示している。
投資の前提——AIユニコーンは長く非公開のまま
Radical Venturesのアナウンスメントには、一つの市場観が明示されている。先端AIカンパニーは評価額1000億ドル以上でIPOに近づく可能性があるが、それまでの間は何度もプライベートラウンドを重ね、コンピュート・チップ・データセンター・ロボティクス・研究チームに多額の資本を要する、という見立てだ。投資家はより多くの資本を、より長期間、すでに高い評価額で投じ続けることを求められる構造だ。
Breakouts Fundはこの前提に賭けている。カナダの研究力から生まれた企業の最も重要な成長期を、カナダの資本が支える——という命題の実証が、このファンドの役割だ。
詳細はRadical Ventures secures over US$1B at first close for late-stage AI fundを参照していただきたい。



