「AIが『普通』のことしか言ってこない」「そんなの、AIにいちいち言われるまでもない」——そう感じたことがないエンジニアはいないのではないか。
アフィリエイト広告・リワード広告を展開するADWAYS DEEEの取締役CTO 大曲智久 氏は、自社のAI推進を牽引する中でいくつもの失敗を重ね、ありきたりな答えしか返ってこない原因が、AIではなく問いを投げる側にあることに気づく。
その試行錯誤から辿り着いたのが「ビジョンから逆算してAIを設計する」という思想だ。 エンジニア27名を含む42名体制でプロダクト開発とAI推進を牽引する大曲氏に、AI活用の実態とフィーチャーチームが生む成長を聞いた。
「購入して、良かった」が起点——事業ドメインとエンジニアリングの面白さ
── まず、ADWAYS DEEEはどんな事業をやっている会社か、簡単に教えてください。
大曲: 主にアフィリエイト広告(成果報酬型の広告モデル。購入・申込などが発生して初めて広告主から報酬が発生する)とリワード広告(ポイントなどの報酬と引き換えに、ユーザーが会員登録やアプリの利用などの条件を達成するモデル)を軸に事業を展開しています。
ビジョンは『つくろう。「よかった」がめぐる世界を。』です。アフィリエイトは購入されて初めて報酬が発生する成果報酬型のモデルなので、「購入して良かった」と思えるような広告体験をどんどん増やしていくことが自社にとってはもちろん、世界を良くしていくことにも繋がると考えています。
── 具体的なサービスを教えてください。
大曲: 大きく2つあります。「JANet」というアフィリエイト広告サービスと、「AppDriver」というリワード広告プラットフォームです。
JANetは、クレジットカードをはじめとする金融領域に強みを持つアフィリエイト広告のプラットフォームです。主な掲載面はクレジットカードカードや金融商品の比較サイトで、そこに集まったユーザーを広告主に送客しています。
AppDriverはポイントサイトやマンガアプリ、最近では大手企業の自社ポイント向けにリワードのプラットフォームを提供しています。
メディアと広告主の「間」にいるからこそ、エンジニアリングが面白い
── アドネットワーク(広告主と掲載メディアを繋ぎ、広告配信するサービス)の一種と理解しても差し支えないでしょうか?
大曲: はい、その理解で間違いありません。私たちはメディアと広告主の「間にいる」立場なんですが、その間にいるからこそ、技術的に面白いことがどんどん増えていると感じています。
── どういうことですか?
大曲: たとえばAppDriverでは、ゲームアプリのレベル50達成、マンガアプリの1話無料読了、レシートのアップロードなど、広告の成果地点が全然違います。同じ「レベル50達成」でもゲームによってユーザーの熱量は違うし、「その先も続けて遊んでもらえるか」まで設計しないといけない。クライアントごとに最適化の中身が全く異なる、という仕事です。
── それは従来の広告最適化とは全然違う話ですね。
大曲: 従来のアドネットワークは「CTR(クリック率)やeCPM(広告表示1,000回あたりの収益)を上げるか」という広告を見たユーザーに対する機械学習の世界でした。でも私たちのやりたいことはそこじゃない。「ユーザーがそのアプリを好きになるタイミングをどう設計するか」という、定性的な理解と定量的な数値を組み合わせた最適化です。 以前は地道で大変な作業でした。でもAIのおかげで、クライアントごとの複雑な最適化がようやく楽しくできるようになってきた。
── 「楽しく」という表現が面白いですね。
大曲: やっとという感じです。私たちはメディアと広告主の間にいるので、メディアや広告主のデータを全部もらえるわけじゃない。その制約の中で、AIを使ってどこまで個別最適化できるか。それを設計するのが、今のエンジニアリングの面白さです。
「AI推進、小さい組織の方が進めやすい」と思っていた時期がありました
── CTOとして全社のAI推進も牽引されているとのことですが、まず全社推進の話から聞かせてください。
大曲: 最初は「うちみたいな40人規模のプロダクト開発組織こそ、大手よりもAIを活用できるはずだ」と思っていたんです。
── なぜそう思っていたんですか?
大曲: コンパクトな組織の方が意思決定が速く、アジャイルに動けるはずだと思っていたんです。ただ、私たちくらいの規模だと、AI導入によるリターンが小さくなりがち。だから専任チームを置くという判断をせずに片手間で進めて、結局全員でちょっとずつ、という形になってしまった。
── 大企業の方が有利だった、ということですか?
大曲: 「そうです」とは言い切れないのですが、少し羨ましく感じる時があります。。大企業だとAI導入による削減効果がとにかく大きいので、「ここに集中させればこれだけリターンが出る」というロジックが成立しやすい。同じ工数削減でもうちでは月に数十時間でも大企業だと数万時間ということが起きる。専任チームを置く判断がしやすい部分はあるだろうなとどうしても思ってしまいます。**
── なるほど…私も、大企業のほうが動きが鈍いだろうと思いこんでいました
大曲: 全員がAI推進ですという建前はあっても、他の業務との兼ね合いで専属でAIに向き合える時間がなかなか作れなかった。「今まで通り」の延長線でやろうとして、中途半端になってしまいました。今は、専任化に向けて動いております。
AIの提案が、浅い——予算消化AIが教えてくれたこと
── プロダクト機能としてのAI活用はどうでしたか?
大曲: AIを使ったプロダクト開発にも、3〜4チームほど取り組みました。その中で戦略の柱として大きく成果を出したものは一つだけでした。そしてそれは「正面からAI機能を作った」ものではなく、PMM・営業・データサイエンティスト・データエンジニアが連携してデータ基盤を使いながら、生活視点での最適化をカスタマイズしていくというものでした。これはこんな世界観を達成したいと強い思いがありました。「AIを入れる」こと自体を目的にしたチームは、今のところ戦略の柱にはなれていない。
── 失敗の根本原因はどこにあったと思いますか?
大曲: 一番の原因は、AI機能に対するプロダクトビジョンや機能に求める指針の弱さがあったと思います。たとえば予算消化の最適化を目的にAIエージェントを作ってみたんですが、「予算が余っているからなんとかしよう」という起点だと、AIがそれらしいことは提案してくれる。でも、浅いものになってしまうんです。
── 「浅い」というのは、具体的にどういう状態ですか?
大曲: 「広告のCTR(クリック率)の提案をたくさん出す」みたいなことはAIにとって得意な場面があります。でもそれはデータだけから見れる傾向であって、本質でもないことが発生します。当たり前ですが、AIって、コンテキストがないと、ありきたりなところに閉じこもってしまうんです。
── つまり、AIへの問いの質が、そのまま出力の質を決める。
大曲: そうです。AIは、問いの質を超えた答えは出してくれない。 あと、もう1つ構造的な制約として、私たちはメディアと広告主の間に立つ立場なので、メディアや広告主のデータを全部自由に扱えるわけではない。その制限がある中で、そのままAIを使おうとしても、考える材料が足りないので、AIも通り一遍のことしか言えないわけです。AI機能を考える前に、まずAIが活躍できるデータ基盤やハーネスを整えることが先決だと、今は認識しています。
── データが限られている中で、どうすればAIに「想像を超えた提案」をしてもらえるんでしょう?
大曲: いろんな失敗を経てたどり着いたのは、「こうしたいんだ」というビジョンを先に明確にして、そこから逆算してAIの使い方を設計する必要がある、という結論です。
たとえば、「クリック率を最大化する」ではなく、「ユーザーがアプリを好きになるタイミングを設計する」というビジョンをAIに伝える。そうすればAIは、そこから逆算して「どんなデータを集めるか」「どう分析するか」を考えることができるようになるわけです。
一方で、「何がしたいのか」を私たち自身が考え切れていない状態でAIに丸投げすると、クリック率とかコンバージョン率とか、表面上の結果が良さそうなものに収束してしまう。
── ビジョンが曖昧なままAIに渡すと、AIも迷子になる、と。
大曲: まさにそうです。AIは「良い問い」があって初めて力を発揮する。 『つくろう。「よかった」がめぐる世界を。』というビジョンを実現するためにはどういう体験設計が必要か。その思考を人間側がしっかり持った上でAIを使わないと、AIは浅いところにしか届かないんだということを学びました。
フィーチャーチームで「Whyを考える」——AI時代の開発体制変化
── AI時代になり、実際の開発体制も変化していますか?
大曲: はい、変わってきています。私たちはPdM・デザイナー・エンジニアがひとつのチームで動く「フィーチャーチーム」体制を続けています。
不確実さの中で効果のあるものを見つけるディスカバリーでは、一次情報を持ち寄って職能をまたいで仮説を立てる。
作るものが決まったあとのデリバリーで、イベントストーミングを使ってユーザーストーリーに落とし込んでいます。
※フィーチャーチーム:PdM・デザイナー・エンジニアが職能横断でひとつのチームを構成する開発体制。機能単位でチームを編成し、各職能が連携して開発を進める。
※イベントストーミング:ドメインの専門家と開発者が協力してシステムを設計するワークショップ手法。
※ディスカバリー:何を作るかを探索するフェーズ。
※デリバリー:実際に作って届けるフェーズ。
── AI時代になって、チームの動き方は変わりましたか?
大曲: はい。一番変化が大きいのは、以前は上のレイヤーが担っていた「Whyを考える」という仕事が、AIの普及によって現場に降りてきているところですね。
例えばデザイナーが自分で分析、デザイン、コーディングまで行うようになったり。PdMの仕事はよりビジネス寄りになりましたし、エンジニアは大量のタスクを並列で行うようになったり。
以前は「PdMが決めて、デザイナーがデザインして、エンジニアが作る」という分業が明確でしたが、今はそれぞれが領域を越えて動いている。AIが実装の一部を担うようになったことで、人間側はより「何を作るか」の判断に集中できるようになってきた。 そんな感覚があります。
諦めていたレガシー刷新が現実的になった——大規模モダナイゼーション、技術基盤の刷新
── 技術基盤の刷新も進めているそうですね。
大曲: はい。元々Perlで動いていた部分からScala/Vue.jsを経て、今年から新しい基盤を作ってGo/Reactに移行しています。コアロジックのモダナイゼーションは若手エンジニア中心に展開を進めてくれていて、教育の場としても機能しています。
── 以前は「もう撲滅できない」と諦めていた部分もあったんじゃないですか?
大曲: 正直そうでした。でもAIのおかげで、そのレガシーを一掃できる見込みが出てきた。「どうせやるなら、新しいビジネスにも勝てる基盤を作ろう」という方針にシフトしました。 AI前提の世界ではデータ基盤の重要性がより高まるので、今がその切り替え時だと判断しています。
── 最後に、チームリーダーやEMを目指すエンジニアに向けてメッセージをお願いします。
大曲: フィーチャーチームとして機能している環境と、プロダクト戦略に対して裁量が持てるかどうかで、エンジニアとしての成長が大きく変わってきます。「Whyを考える」という仕事が現場に降りてきた今、そこと正面から向き合える環境にいることが、数年後に大きな差をつけます。
私たちは『つくろう。「よかった」がめぐる世界を。』というビジョンのもと、広告とユーザー体験の本質的な改善に技術で向き合い続けています。難しい課題ではありますが、だからこそ面白い。そう思って頂けるような方と、ぜひ一緒にお仕事したいです。
プロフィール
大曲 智久(おおまがり・ともひさ) 株式会社ADWAYS DEEE 取締役CTO
エンジニア・デザイナー・PdMを含む42名体制のプロダクト開発組織を統括。プロダクト開発全般に加え、全社AI推進も担当。フィーチャーチーム体制やイベントストーミングを取り入れた開発スタイルを推進している。




