9月17日、Scientific Americanが「AI labs are claiming "AGI" is imminent」と題した記事を公開した。AIラボが「AGI到来」を声高に主張する中、その言葉の定義が都合よく変化し続けている実態を批評的に分析した内容だ。定義の変容を丁寧に追うことで、業界言説の構造的な問題点が浮かび上がってくる。
AIラボが「AGI到来」を主張——しかし、AGIとは何か
複数のAIラボが相次いで、**AGI(汎用人工知能)が到来したか、あるいは目前に迫っている**と主張している。映画『2001年宇宙の旅』のHAL 9000、『ターミネーター』のSkynetのように、「機械が人間を超える瞬間」はフィクションで繰り返し描かれてきた。今回はそれが現実の文脈で語られている。
だが、Scientific Americanの記事はこの主張に対してすぐに問い返す。「そもそもAGIとは何なのか」と。
「AGI」の定義は誰が、なぜ動かしてきたか
AGIという言葉はもともと、1990年代の「AIの冬」(AI研究への投資・関心が急速に冷え込んだ時期)に、少数の研究者たちが「真に考える機械」を夢見て掲げたバナーだった。SingularityNET FoundationのBen Goertzelはその先駆者の一人で、「当時、本物の思考機械の話をすると、頭がおかしいと思われた」と振り返る。
この文脈では、AGIはあくまで「人間レベルの汎用性」を指す概念であり、「人間を超える知性」=ASI(人工超知能)とは別物だった。ところが今日、この二つの概念は混同されつつある。
GoogleのVP、Blaise Agüera y Arcasはこう指摘する。「今日『AGI』という言葉を使う人の多くは、ASIのことを意味しているか、あるいは『魂があるか』『意識があるか』といった別の何かを意味している」
「言語モデルの登場時点でAGIは達成済み」という主張
Agüera y Arcasは2023年の論文エッセイでStanford大学のPeter Norvigとともに、「AGIはすでに到来している」と主張した。その根拠は以下だ。
LLM(大規模言語モデル)は「次の単語を予測する」という一つのタスクに特化して訓練されているが、そのタスクが特殊だという。言語を習得するには、文法だけでなく膨大な世界知識の獲得が必要であり、結果として訓練されていない領域にまで能力が波及する。彼はこれを「言語はAGI完全なタスク(AGI-complete task)だ」と表現する。
また今日のLLMは他の計算モジュールを呼び出すことができ、言語が「より広い能力への入り口」になっているとも述べている。
一方、人間の場合、言語は独立した機能だ。脳損傷によって言語能力を失っても、数学やチェス、作曲はできる——言語と推論は分離している。しかしLLMではその分離が存在しない、というのが彼の論点だ。
「それでも足りない」と言う研究者たち
反論も根強い。California Institute for Machine ConsciousnessのJoscha Bachは、真に知的なシステムがインターネット全体を読み込み、単純なクエリにも膨大な計算資源を消費するはずがないと主張する。「我々より遥かにコンパクトで、遥かに少ない情報しか読んでいない——しかし学習も推論も我々より優れている——そういうシステムがAGIだ」と彼は言う。
Goertzel自身も、現行の最先端モデルを試した感想として「自分一人でできないことは何もない。ただ速いだけだ」と述べる。スピードは実用的な価値があるが、創造的な火花が欠けている、というのが彼の評価だ。
さらにAgüera y Arcasも認めるように、現在のAIモデルは経験から継続的に学習することができない。「セッションの中で一時的に学ぶことはできるが、その学習は永続しない」。これは人間の知性の重要な特徴である「経験からのオンザフライな学習」が欠如していることを意味する。
「AGIの瞬間」は来ないかもしれない
記事の結論は示唆に富む。AIは一枚岩ではなく、知性もまた一枚岩ではない——だとすれば、「AGIの到来」という一点突破の物語自体が的外れかもしれない。
科学者の病気研究を助けるシステムと、大規模サイバー攻撃を可能にするシステムは、「AI」という同じ言葉で括られながら、全く異なる存在だ。記事は「AGIがどう定義されようと、気候変動や世界の飢餓を解決しない——なぜなら障壁は何をすべきかを知ることではなく、実行することだからだ」と締めくくっている。
定義をどう操作しても、現実の問題は変わらない。「AGI」という言葉が何を指しているのかを問い続けることは、業界の言説を読み解く上で欠かせない視点である。AGIをめぐる議論の背景をさらに深掘りしたい読者には、OpenAIによるAGIの定義に関する公式ページや、AI安全性の文脈でAGI・ASIを論じたFuture of Life Instituteのリソースも参照に値する。
詳細はAI labs are claiming "AGI" is imminentを参照していただきたい。




