9月18日、Suganthan Mohanadasan氏が「I Made My Website Charge AI Agents A Penny Per Page, Then I Watched Claude Pay It」と題した記事を公開した。AIエージェントが自サイトのページにアクセスしようとした瞬間に1セントを請求し、Claude Codeが実際にその支払いを完了した——この一文が実験のすべてを要約している。架空のプロトコル実証ではなく、ブロックチェーン上にトランザクションハッシュが残る「支払いの記録」が9月15日の朝に刻まれた。
AIエージェントが「払うか、引き返すか」を判断する世界
AIエージェントがWebコンテンツを読み、そのまま回答を生成してサイトへのトラフィックを返さない問題は、すでに多くのパブリッシャーが直面している現実だ。AI OverviewsによってオーガニッククリックがAI導入前と比較して38%減少したというフィールドスタディも出ている。
こうした状況で取りうる対応は概ね三択だった。
- AIクローラーをブロックする(収益ゼロだが自衛できる)
- News CorpやFTのように大手プラットフォームとライセンス契約を結ぶ(小規模サイトには非現実的)
- GoogleのAI contribution pilotに参加する(計算根拠が不透明なブラックボックス)
Mohanadasan氏が試みたのは、これらとは異なる第四の道だ。ページをリクエストした時点で価格を提示し、エージェントが支払えばコンテンツを渡すというペイ・パー・クロールモデルを、自サイト上で動く形で実装した。
実験の核心:HTTP 402とx402プロトコル
技術的な仕掛けは「x402プロトコル」だ。1997年からHTTP仕様に「将来のために予約」されたまま使われていなかったステータスコード402 Payment Requiredに、ようやく実用的な用途を与えた規格である。
2026年7月14日には、x402 FoundationがLinux Foundation傘下で正式発足。Visa、Mastercard、Google、AWS、Stripe、Cloudflareを含む40社が参加している。この正式発足は、今回の実験が持つ意味を考えるうえで重要な文脈だ。「AIエージェントがWebコンテンツに対してマイクロペイメントを行う」という概念は以前から議論されていたが、主要プレイヤーが標準化団体を立ち上げたことで、プロトコルが実装される現実的な土台が整いつつある。Mohanadasan氏の実験はその黎明期に行われた動作実証であり、単なる技術デモ以上の意味を持つ。
支払いの流れは4ステップだ。
- エージェントがページをリクエスト → サーバーが
402を返し、PAYMENT-REQUIREDヘッダーで価格と支払い条件を提示 - エージェントがUSDCの送金認可に署名し、
PAYMENT-SIGNATUREヘッダー付きでリトライ - ペイメントファシリテーター(デモではCoinbaseの
x402.org)が署名を検証し、ブロックチェーン上で決済 - サーバーがコンテンツと
PAYMENT-RESPONSE(決済レシート)を返す
同氏のサイトが返す実際の402レスポンスをデコードすると以下のようになる。
{
"x402Version": 2,
"accepts": [{
"scheme": "exact",
"network": "eip155:84532",
"amount": "10000",
"asset": "0x036CbD53842c5426634e7929541eC2318f3dCF7e",
"payTo": "0xEdF2444D0259BBB8aC5094216D0148938F8308ff",
"maxTimeoutSeconds": 300,
"extra": { "name": "USDC", "version": "2" }
}]
}
networkのeip155:84532はEthereumのL2チェーンであるBaseのテストネット「Base Sepolia」を指す。amountの10000はUSDCが小数点6桁なので0.01 USDC(1セント)を意味する。支払いはBase Sepolia上のテストネットUSDCで行われるため、現時点で実際の金銭的価値はない。
なお、Base(およびBase Sepolia)はEthereumのL2チェーンであり、トランザクション手数料(ガス代)の支払いにはETHが必要だ。USDCで直接ガス代を払えるチェーンではない。エージェントのウォレットがETH残高ゼロでも決済が通った理由は後述するが、ファシリテーターがガス代を肩代わりする仕組みによるものであり、USDCがガス代として使われたわけではない点に注意が必要だ。
curlでアクセスするとこうなる。
$ curl -i https://paid.suganthan.com/research/agentic-seo/
HTTP/2 402
payment-required: eyJ4NDAyVmVyc2lvbiI6MiwiZXJyb3Ii...

Claude Codeが実際に支払った
9月15日の朝、5件の支払いが成立した。いずれもブロックチェーン上にトランザクションハッシュが記録されている。そのうちの1件は、Mohanadasan氏のマシン上で動作し、氏が用意したウォレットを使ったClaude Codeによる支払いだ。

現時点では、外部の検索クローラーが勝手に支払ってくれているわけではない。支払いはすべて氏自身のエージェントによるものだ。
エージェントに「予算」を持たせる
支払う側のエージェントも重要な設計要素だ。Mohanadasan氏は小さなNode.jsスクリプトに2つの制限を設けた。
- 1回の呼び出しあたり上限$0.05
- 1日の合計上限$0.25(ディスク上の支出台帳に記録)
スクリプトはサーバーが提示した価格をこの制限と照合し、上限を超えていれば支払わずに終了する。
[step 3] Spending guardrails
[refused] Price $0.0100 exceeds the per call cap of $0.0010.
This agent does not negotiate. Raise MAX_PER_CALL to override.
氏はこの「拒否」こそがデモの最も重要な部分だと言う。エージェントがすべての価格を無条件に支払うなら、予算を委譲したのではなく、ウォレットを空にする手段を与えただけだ。
なお、エージェントのウォレットはETH残高がゼロだったが、すべての決済は通った。Base SepoliaのトランザクションにはETHによるガス代が必要だが、ファシリテーター(x402.org)がそのガス代を立て替えて処理したためだ。エージェントはUSDCの送金認可に署名するだけでよく、ガス代の調達はファシリテーター側が担う設計になっている。
デモの構成
デモはpaid.suganthan.comで公開されている。Cloudflare Worker上でHonoを使い、約300行のコードとx402ミドルウェアで動く。8月8日から稼働し、支払いのたびにタイムスタンプ・支払者アドレス・トランザクションハッシュを/earnings/ページに記録している。
ルートは3つ。
- ランディングページ:無料、デモの説明
- **
/research/agentic-seo/**:1クロールあたり$0.01 - **
/earnings/**:累計収益と取引記録

ブラウザでアクセスした人間には課金内容を説明するページを返し、プレビューボタンで無料閲覧もできる。また、GPTBot・ClaudeBot・PerplexityBotといった既知のAIクローラーだけに課金し、人間は無料でブラウズできるモードも実装済みだ(デモでは無効化されている)。
robots.txtとの根本的な違い
robots.txtによるクローラー制御は、クローラーが自発的にそれを尊重することに依存している。OpenAIはChatGPTのfetchボットにrobots.txtが適用されない可能性を示唆している。
x402の場合、サーバーは支払いが完了するまでコンテンツを渡さない。ルールを「守るか守らないか」ではなく、「払うか引き返すか」だ。
ただし、ユーザーエージェント文字列は偽装できる。この問題に対し、Cloudflareはクローラーの身元を暗号的に検証する方式を採用している。CloudflareのPay Per Crawl(現在クローズドベータ)も同じx402プロトコルを利用しており、将来的なMonetization Gatewayと連携する設計だ。
詳細はI Made My Website Charge AI Agents A Penny Per Page, Then I Watched Claude Pay Itを参照していただきたい。




