9月17日、Emanuelが「I Hijacked a Real Artist's Spotify with AI Music. It Was Disturbingly Easy」と題した記事を公開した。AI生成音楽を使って実在アーティストのSpotifyページを乗っ取る詐欺の手口と、それを可能にするデジタル音楽配信の構造的欠陥を検証した内容だ。プラットフォームの対策が追いついていない現実が、具体的な実験を通じて浮き彫りになっている。
月額3.75ドルで他人のSpotifyを乗っ取れた
記者のEmanuelは、ブルックリンを拠点にするパンクバンド「Lathe of Heaven」の公式Spotifyページに、バンドが知らない間にAI生成楽曲を掲載することに成功した。手順はこうだ。
- AI音楽生成サービス「Udio」に「男性ボーカルのパンクソングを生成して」とプロンプトを入力し楽曲を作成
- ChatGPTでアルバムカバーを生成
- デジタル音楽配信サービス「Distrokid」に月額3.75ドルでアカウントを作成し、楽曲をアップロード
- アーティスト名に「Lathe of Heaven」と入力すると、DistrokidがSpotify・Tidal・Apple Music・Amazon Musicの既存公式ページを自動検出し、「あなたのバンドですか?」と確認してきた
- 「はい」と答え、作曲者・プロデューサー・レーベル名を入力(レーベルは「404 Records」と記入)
「この音楽を録音し、世界中で販売・ロイヤリティ収集の権限を持っている」「他のアーティスト名を無断使用していない」というチェックボックスにチェックを入れれば完了だ。DistrokidもSpotifyも、これらの申告を一切検証しなかった。
翌日、AI生成楽曲「Riding High」はLathe of Heavenの公式Spotify、Amazon Music、Apple Music、Tidal、Deezerページに掲載された。一般ユーザーには、バンド本人がアップロードしたものと区別がつかない。ロイヤリティはすべてEmanuelに入る仕組みだ。
バンドのボーカルであるGage Allisonはこう語った。
「その曲を聴いた。ひどいものだった。あなたがそれをできてしまったことは正気とは思えない。(中略)誰かがこのクソみたいなものを我々の名前でリリースして評判を台無しにできるという事実は、本当に打ちのめされる思いだ」
「1日10万曲以上が届く」——プラットフォーム側の言い分
この問題の本質は、デジタル音楽配信サービスの仕組みにある。アーティストは各ストリーミングサービスに個別に楽曲をアップロードするのではなく、Distrokidのようなアグリゲーターサービス(集約配信サービス)を使って一括配信する。この利便性が悪用の温床になっている。
なお、Distrokidは独立系アーティスト向けの主要なアグリゲーターサービスの一つであり、世界中の多数のミュージシャンが利用している。こうした大規模プラットフォームでの申告ベースの審査が、今回の手口を成立させた構造的背景となっている。
Deezerは取材に対し「1日100,000曲以上の新規トラックを受け取ることがあり、レビューは手動で行っている」と回答した。Spotifyは「AIによる音楽検出は業界全体で技術的に未解決の問題だ」と述べ、検出モデルが生成AIのバージョン違いに対応しきれず、プラットフォームのモデル更新でほぼ一夜にして陳腐化すると説明した。
一方で、この問題の深刻さはすでに広がっている。音楽家のOdette Childは7月から調査を開始し、テイラー・スウィフトから無名のブロードウェイ俳優、故人のジャズミュージシャンに至るまで、300曲以上のAI生成楽曲が実在アーティストを騙っているのを発見した。リストをSpotifyに報告したが、対応はなかったという。
「これは新しい抜け穴でも、新しい悪用でもない。私たちには保護のためのインフラが必要だ」(Odette Child)
Amazonは「過去1年間で数千万件の不正トラックを削除した」と述べた。Spotifyは2026年8月にAIアーティスト識別バッジの導入と、アーティストが新規リリースを承認・拒否できるArtist Profile Protection機能を発表している。ただし、この記事の公開時点(2026年9月)においても、これらの機能はオプトイン方式であり、すべてのアーティストに自動適用されるわけではない。Odette Childが報告した300件以上の事例への対応が進んでいないことからも、発表から1か月以上が経過した現在も、プラットフォーム上のAI楽曲による成りすましは解消されていない。抜本的な解決策とは言い難い状況が続いている。
Distrokidは取材に対して回答しなかった。
被害を受けやすいのは「管理されていないページ」
Spotifyは「積極的に管理されていないプロフィールは特に脆弱になりやすい」と認めた。故人のアーティストや知名度の低いアーティストが狙われやすい傾向があり、記事では1989年に殺害されたカントリーミュージシャン、Blaze Foleyのページが死後にAI楽曲で更新された事例も報告されている。故人の黒人ジャズミュージシャンのアルバムカバーに、AI生成の白人アーティストの画像が使われているケースも確認されている。
なお、AI検出の誤判定も問題になっている。ウクライナのミュージシャンAndriana-Yaroslava Saienkoは、自身の声とAbletonの内蔵音源だけで制作した楽曲を、配信サービスのTuneCoreにAI生成と誤検知されて配信拒否された経験を持つ。
「AIによる音楽フィルタリングは公平だと思う。でも私のケースは別の問題——AI検出システムが明らかに間違いを犯したとき、人間と対話して解決する手段がないことだ」(Saienko)
詐欺的利用への対策強化と、正当なアーティストの誤検知救済という二つの課題を、プラットフォームは同時に解決しなければならない状況に置かれている。
詳細はI Hijacked a Real Artist's Spotify with AI Music. It Was Disturbingly Easyを参照していただきたい。




