9月23日、The Newsが「AI is quietly wiping out entry-level jobs, experts warn」と題した記事を公開した。AIの普及によってエントリーレベルの雇用が静かに失われていく実態と、それがキャリア形成に及ぼす構造的影響について、複数の専門家と調査データをもとに詳しく論じている。
「ひとりで5社担当」が現実になった
ロンドンの広告代理店Catalystでは、かつてクライアント5社の対応に小チームが必要だった。今はジュニア1人が全案件を担当している。リサーチ、初稿のコピーライティング、データ集計はすべてAIが処理し、人間はクライアントの前に顔を出すだけだ。
創業者のTobias Greenはこれを「逆メカニカルターク」と表現する。
【用語】メカニカルターク/逆メカニカルターク
Amazon Mechanical Turkとは、AIが苦手とするタスク(画像認識・文章判断など)を人間が裏側でこなすクラウドソーシングサービス。名前の由来は18世紀に実在した「チェスを指す自動機械」で、実際には人間が内部に隠れていた。Greenが言う「逆メカニカルターク」はその裏返しで、表に立つ人間の背後でAIが実務の大半を処理する構造を指す。
これは一社限りの話ではない。Open Universityが2026年に英国のビジネスリーダー1,500人を対象に実施した「Business Barometer」調査は、組織横断的な変化を裏付けている。同調査はOpen Universityが毎年実施している雇用動向の定点観測で、業種・規模をまたいだ幅広いサンプルから構成されている。結果によれば、51%がAIによって採用方針が変わったと回答。さらに約5人に1人(約20%)がエントリーレベルの採用を完全に停止しており、その大半がAI導入を直接の原因として挙げている。
「ピラミッド型」から「ダイヤモンド型」へ
人材評価会社SHLのLucy Beaumontは、組織図の変化を鋭く指摘する。従来の組織は底辺が広いピラミッド型だったが、今はミドル層に人が集まり、底辺が細くなる「ダイヤモンド型」にシフトしているという。
エントリーレベルの役職は単純な雑務をこなす場ではなく、ミスを犯しながら判断力を養う場だった。その「最初の踏み台」が消えることで、梯子全体が上の段から機能しなくなる、とBeaumontは警告する。
調査会社BloorのCheney Hamiltonはさらに踏み込む。AIはジュニアが生み出せる成果の「天井」を引き上げるが、その出力が間違っているときに気づく能力は上げない。その判断力はかつて、反復作業と失敗の積み重ねから培われていた。そしてその反復作業こそ、今AIが吸収している仕事だ。
AIが「新しい仕事」を生んでいるのか
一方で楽観的な見方もある。調査によれば、45%の組織がAIを使ってジュニア社員の業務効率を上げている状況で、約4分の1は「AIが完全に新しい職種を生み出している」と回答している。
FDM GroupのSheila Flavellが例として挙げるのがソフトウェア開発分野だ。ジュニア人材がAIエージェントと社内メンバーの双方をオーケストレート(調整・管理)する役割を担うケースが出てきているという。
採用基準自体も変わりつつある。Beaumontによれば、銀行が金融専攻ではなく心理学・法律専攻の卒業生を採用し始めているという事例が報告されている。AIが定型業務を代替するなか、人間に求められるスキルセットが再定義されているともいえる。
エンジニアへの含意
※以下は編集部の考察を含む。
ソフトウェアエンジニアリングの文脈でも、この構造変化は他人事ではない。コードレビュー、テスト作成、ドキュメント整備といった「ジュニアが担う定型タスク」はAIが最も得意とする領域だ。Greenの言葉が刺さる——「AIが退屈な仕事を奪えば、残るのはAIへの指示の出し方だけだ」。
プロンプトエンジニアリングはれっきとしたスキルだが、コードが何をしているか・なぜ動くかを深く理解する力とは別物だ。その理解力が、かつては「退屈な仕事」の中で育まれていた。ジュニアがいなければシニアも育たないという構造的問題は、個々の企業の採用判断が積み重なることで業界全体の技術的地盤を揺るがしかねない。エントリーレベルの雇用をどう設計するかは、今や単なる人事の問題ではなく、組織の長期的な技術力の問題でもある。
詳細はAI is quietly wiping out entry-level jobs, experts warnを参照していただきたい。




