「AIネイティブカンパニー」という言葉が広まっている。だが、それが何を意味するのか、具体的に何をすればいいのか、答えられる会社はどれほどあるだろうか。
ミツモアでCAIOを務める柄澤 史也氏は、「AIが働きやすい会社を作る」という言葉でその問いに答える。共同創業者として9年以上CTOを務めた後、生成AIの登場を受けてCAIOに役職を変更。社内の業務改革から社外向けAIプロダクト開発まで統括する立場から、AIネイティブカンパニーの理想と現実を聞いた。
CTOからCAIOへ——事業とAI戦略の全体像
── まず自己紹介と事業の概要を教えてください。
柄澤: 株式会社ミツモアでCAIOをやっています。共同創業者として取締役もやっていて、CTOとして9年以上やってきました。今回CAIOとして社内の業務改革と社外向けのAI企画・開発を担っています。
ミツモアの主要な事業は、依頼者とプロをつなぐマッチングプラットフォーム「ミツモア」と、現場業界向けオールインワンSaaS「プロワン」です。「日本のGDPを上げる」というミッションを掲げていて、現場業界の生産性をITやAIの力で爆増させるというのが大きなテーマです。
CTOからCAIOへの役職変更は、生成AIの登場によるゲームチェンジへの経営意思の現れです。「AIネイティブカンパニーを目指す」という目標を、具体的に追求していく役目を担っています。
AIが学習していないデータに価値がある——技術的な面白さと変化
── ミツモアやプロワンといった事業が、AIでどのように変わってきましたか?
柄澤: 例えばプロワンでは、仕入れ伝票からOCRでデータを読み取って見積もりを作るとか、現場の方々の作業報告書の作成を楽にするとか、様々な機能を実現しています。
プロワンは元々、様々な企業に日々使っていただいているので、大量のデータが既に存在しています。それらのデータを最大限活用できるよう、プロダクトにAI機能をどんどん組み込んでいます。
── そういうデータを持っているのはすごい強みですね。
柄澤: そのとおりです。汎用的なLLMはインターネット上の情報を学習していますが、会社固有の業務ノウハウや日本の現場業界に特化した情報は持っていない。プロワンはそうしたデータの塊なんです。
AI機能の実装と最適化の実際——モデル選定、コンテキストキャッシング…
── LLMをプロダクトに組み込む上で、気をつけていることは何でしょうか?
柄澤: LLMによってその都度コストが増えていくとなると、従来のSaaSの(一定金額のサブスクリプション型の)プライシングでは提供が難しくなってきます。なので、機能を実装するだけでなく、ビジネスモデルもアップデートし、更にはLLMのコストを抑えるという、すべてを同時に行っていく必要があります。
── テクニカルなコスト最小化としてはどんな取り組みをされていますか?
柄澤: 一番シンプルなのはモデルの選定です。仕事内容によって最適なモデルを割り当てていく。あと、コンテキストキャッシングはかなり効果的です。特にSaaSに組み込むとなると、同じプロンプトを繰り返し利用することになりがちなので、先頭のシステムプロンプトの共通部分はキャッシュが効く。プロンプトの並び順や変数が入るかどうかでキャッシュの効き方が変わってくるので、そういうことを地道にやっています。
※コンテキストキャッシング:AIへのリクエストで変化しない先頭部分をキャッシュすることでAPIコストを削減する手法。
── LLMのモデルを変更したり、プロンプトを変更したりすると、プロダクトの動作結果も大きく変わるのではないでしょうか?プロダクト品質の担保はどのように行っていますか?
柄澤: LLMの出力結果の品質チェックや、それに伴うユーザー行動の分析を、毎日AIにやらせています。 こういうAIによるレビューを行いながら、人間が気になった分析結果を深掘りしていき、その結果をプロダクトにフィードバックしています。
1人1プロジェクトとハーネスの整備——AIが変えた開発体制
── そういうループを回すチームの開発体制はどうなっているんですか?
柄澤: 1人が1プロジェクトを担当する、という形になってきています。
従来、プロダクトマネージャーやデザイナーと共同作業が必要でしたが、それらを一人のエンジニアが全部やる。同時にチームとしてのハーネスを整備して、基盤の共通化を図っています。
── エンジニアがプロダクトマネジメントまで行うわけですね。
柄澤: はい、エンジニアが今後進むべき道は、大きく分けて2つだと思っています。
1つはプロダクトマネジメントや要件定義など、従来のエンジニアリングの「外側」もカバーしていく方向で範囲を広げていく道。
もう1つはハーネスやインフラなど、プロダクトやプロジェクトの基盤を構築していく側に回る道です。
── 従来のエンジニアとは異なる能力が求められるようになる、と。
柄澤: そうですね。でも、実はそこって本質的にはあまり変わってないんじゃないかと思うんです。
例えばプロダクトマネジメントや要件定義にはコミュニケーション能力が非常に求められますが、そもそも「コードを書く」という行為自体、将来そのコードを読むであろうエンジニアとのコミュニケーションだ、とも言えると思うんです。
なので優れたコードを書けるエンジニアにとっては、コミュニケーションを求められる職種へのスキルチェンジも、大きなハードルにはならないんじゃないかと思います。
AIネイティブカンパニーとは何か——「AIが働きやすい会社を作る」
── CAIOとして普段考えていること、悩んでることなど伺えますか?
柄澤: CAIOになってから、「AIネイティブカンパニーとは何か」という問いと3ヶ月ずっと向き合ってきました。
今思っているのは、従来、経営資源とは「人、モノ、金」と言われてきましたが、これらと同列にAIがなるんじゃないか、と言うことです。「人」とAIが垣根なくコラボレーションしていく、そういう会社がAIネイティブカンパニーと呼ばれるんじゃないかと思っています。
こういう考えに基づいて、今私が取り組んでいるのは、「AIが働きやすい会社を作る」 ということです。
── 「AIが働きやすい会社」…とても面白い発想ですね。
柄澤: 例えば私がある会社に入社して、情報も何もなしに仕事しろとなったら結構大変じゃないですか。それはAIも同じです。なので、AIが必要とする情報を整備するとか、社内ルールがどこにあるか教えるとか、AIを貴重な経営資源として、その能力を最大限引き出す環境づくりが必要だなと。
あと、従業員には評価制度もありますよね。給与を決定するためだけじゃなく、従業員が成長していくためにも、評価制度は不可欠です。そこで私たちは、AIに対しても評価制度を作ってはどうか、と考えているんです。そうすれば、AIの費用対効果も高められ、AIの成長を促せるんじゃないかと。
── 最後に、読者に向けてメッセージを頂けますでしょうか。
柄澤: 今弊社は、「AIを使い倒したい」人材を求めています。プロダクトにAI機能を追加していくとか、社内をAIでどんどん業務改革していくとか、どちらもすごくやりがいのある仕事がたくさんあります。
最新のAIモデルをフル活用できる環境で、AIととことん向き合ってみたいという方に、かなり面白い環境だと思いますので、興味のある方はぜひ一度話を聞きに来て頂けると嬉しいです。
── 本日はとても興味深いお話、どうもありがとうございました。
プロフィール
柄澤 史也(からさわ ふみや)
CAIO(Chief AI Officer)
株式会社ミツモア
共同創業者として取締役を務め、CTOとして9年以上ミツモアの技術を牽引。 生成AIの登場を受けAIネイティブカンパニー化に向けた組織変革のためCAIOへ役職変更。 社内のAI業務改革と社外向けAIプロダクト開発を統括する。
聞き手:
白石 俊平(しらいし しゅんぺい)
AI Professionals
編集長
Hajimari株式会社 シニアプロダクトマネージャー。 AI Professionals編集長として、AIエンジニア・テックリーダー向けメディアを運営。 元TechFeed創業者・CTO歴任。html5j創設、HTML5 Conference主催など、 日本のエンジニアコミュニティを牽引してきた。




