10月23日、Tim Murphyが「AI cost controls lag as CFOs' influence grows, Deloitte finds」と題した記事を公開した。自社のAIコストをリアルタイムで把握できているCFOは、わずか20%にすぎない。残りの半数以上は、請求書やレポートを受け取って初めて支出の全貌を知る——そうした「事後確認」の構造が、AI投資拡大の時代に深刻なリスクをはらんでいる。Deloitteの調査が浮き彫りにしたのは、コスト管理の仕組みが整備されないまま支出だけが膨らみ続けるという、多くの企業に共通する現実だ。
AIのコストを誰も把握できていない
DeloitteのCFO Signalsサーベイ(※四半期ごとに北米の大手企業CFOを対象に実施される定点調査)によると、CFOの53%が自社のAI利用コストをリアルタイムではなく、請求書やレポートを通じて事後的に確認していると回答した。使用量ベースの課金体系や、ベンダーが随時変更する価格モデルにより、AIコストの予測は極めて難しくなっている。事後確認では、予算超過が発覚するまでに支出が膨らんでしまうリスクがある。
ベンダー側の動きも問題を複雑にしている。GAI Insights(※生成AIの企業活用に関する調査・アドバイザリーを手がける専門機関)のJohn Sviokla会長はこう述べている。
「Salesforceを利用するあるクライアントからの報告では、今年の年始からこれまでに、Salesforceが5つの異なる新しい価格モデルを提示してきたという。」
CIOとCFO双方にとって、今やAIコストは「予算を立てて終わり」ではなく、利用拡大に伴うスケールコストや価格体系の変動まで継続的に追跡しなければならないものになっている。ベンダーが数カ月単位で価格体系を刷新する状況では、前年比での予算計画そのものが機能しにくい。
コントロール機能は「基礎段階」にとどまる
CFO Signalsサーベイが示すコスト管理の実態は、楽観視できるものではない。
- **56%**のCFOが「利用上限やチーム別予算などの基本的なAI固有の管理策を導入している」と回答
- **24%**が「一般的なIT財務管理に依存している」
- 20%のみが「トークンまたはワークロード単位でのコスト追跡」といった高度な管理策を導入
ここでいう「トークン単位のコスト追跡」とは、GPT系などの大規模言語モデルが処理するテキストの最小単位(トークン)ごとに発生するAPI利用料を、ワークロード・部門・用途別に分解して把握する管理手法を指す。この粒度での追跡を行っていなければ、どのAIワークロードが支出増の原因かを特定するのは難しい。
さらに深刻なのは対応の遅さだ。CFOの74%が、支出が承認上限を超えた場合に関連するAI利用を停止するまで「数営業日から数週間」かかると回答している。これはリアルタイムに近い制御とはほど遠い状況だ。
CFOが「戦略パートナー」として台頭する
こうしたコスト管理の課題が、CFOをAI投資の意思決定プロセスに引き込んでいる。DeloitteはCFO Signalsサーベイとは別に「Finance Trends 2027レポート」として財務リーダーの中長期見通しをまとめており、そこでは財務リーダーの60%が2027年にかけてAIコストが大幅に増加すると見込んでいることが示されている。
DeloitteのEd Hardyは「CFOは財務諸表や組織の財務管理を超えた、より重要な役割を担うようになっている。戦略そのものに引き込まれている」と述べた。
Strategic Horizon ResearchのManish Jain CEOは、役割分担をより具体的に整理する。
「CIOはシステムが機能しているかどうかを把握できる。業務部門は仕事の質が改善したことを示さなければならない。財務は、その価値が最終的な損益に反映されているかを確認すべきだ。」
従来は「技術予算を承認して支出を管理する」だけだった財務部門が、AI投資のROI測定基準の設計やコスト予測モデルの構築にまで踏み込む構図になってきている。CFOが単なるコスト承認者ではなく、投資対効果の設計者として機能し始めているといえる。
AI投資をどう評価するか:段階的資金調達の現実
AI支出の増加が「有用なツールの普及」を反映しているのか「無駄遣い」なのかを見極める仕組みも問われている。Finance Trends 2027レポートによると、主要な投資判断のアプローチは以下の通りだ。
- **27%**:段階的な資金調達(パイロットから始めて目標達成ごとに追加投資)
- **25%**:定量的ROIと正式なビジネスケースの提出を要件とする
- **23%**:経営幹部や取締役会の指示で決定、成果測定プロセスなし
Svioklaは段階的アプローチを支持しつつも、評価基準の設計に注意を促す。「AIは購入して実装できる技術ではない。人々がこの技術と対話しながら理解を深めることで育てるべきケイパビリティだ」。初期の実験段階では「従業員がツールを使い、使いこなす自信を持てているか」を指標とし、スケールアップ段階では投資コスト・期待成果・タイムラインを明示したROI評価を行うべきだとしている。
コスト管理の仕組みが整わないまま支出規模だけが拡大するという構造は、AIへの投資意欲が高まる局面でこそ見直しが迫られる論点だ。
詳細はAI cost controls lag as CFOs' influence grows, Deloitte findsを参照していただきたい。




