10月23日、PYMNTSが「Goldman Sachs CEO Says Individuals Must Be Held Accountable for AI Failures」と題した記事を公開した。ゴールドマンサックス自身がAnthropicのClaudeを使った自律型AIエージェントを本番運用に組み込む一方、そのCEOが「イノベーションか安全かという二項対立は偽りの選択肢だ」と断言する——この自社実践と原則論の両立が、今回の寄稿を単なる業界提言にとどまらない説得力を持たせている。
SolomonがFTへの寄稿でAIガバナンス原則を提示
ゴールドマンサックスの会長兼CEO David Solomonは、2026年10月22日(木)に英紙フィナンシャル・タイムズへ寄稿した論考の中で、同社がリスク管理に用いてきた原則をAIの監督にも適用できると主張した。
Solomonが挙げた原則は以下の通りだ。
- 意思決定者個人が、自らのシステムが生み出した結果に責任を負う
- モデル開発者から引き継いだリスクを正確に把握する
- AIシステムを定期的にストレステストにかける
- AIの脆弱性を発見した従業員が懸念を声に上げることを評価・報奨する
これらの原則は、AIを開発する側にも、実際に導入・運用する企業側にも適用できるとSolomonは述べている。なお、ここでいう「個人」とは現場の従業員ではなく、AIシステムの導入・運用を判断する意思決定者を指しており、経営責任の文脈で語られている点には留意が必要だ。
「イノベーションか安全か」という二項対立を否定
Solomonは寄稿の中で、「選択肢はイノベーションか安全かではない。統制のない実験か、説明責任・信頼・信認の上に築かれた前進か、だ」と記した。
この発言が注目されるのは、ゴールドマンサックス自身がAI導入を積極的に進める当事者であるからだ。同社は2026年2月の時点で、AnthropicのClaudeモデルを基盤とした自律型AIエージェントを構築し、会計・コンプライアンス・業務ファイナンスのコア機能の自動化に着手していた。最高情報責任者(CIO)のMarco Argentiによれば、Anthropicのエンジニアをゴールドマンのテクノロジーチームに6カ月間組み込み、複雑なルールベースのタスクをこなせるAIエージェントを共同開発したという。
一方で、同社はAI過剰依存のリスクも認識している。機関投資家向けデジタルプラットフォーム「Marquee」を統括するChris Churchmanは、AIへの過度な依存がトレーダーを受動的なオペレーターに変え、若手トレーダーがベテランの持つ「暗黙知・直感的知識」を習得する機会を失うと警告している。
規制論議が活発化する中での発言
Solomonの寄稿は、AI規制をめぐる議論が米国内で高まりを見せるタイミングに合わせて公開された。
ワシントン州選出の上院議員Maria Cantwellは2026年10月7日、フロンティアAI(最先端の高性能AIモデル)の規制に関する枠組みを公表した。Cantwellは商業・科学・運輸委員会の少数党筆頭委員を務めており、民主党が11月の中間選挙で上院の主導権を奪還した場合には委員長ポストに就く立場にある。その意味で、この枠組みは連邦規制の方向性を占う試金石として業界から注目されている。
また、OpenAIとAnthropicは外部評価者が自社ラボの内部を確認できる自主的プログラムに合意した数週間後、評価者が入手した情報の利用範囲を制限しようとしていることがロイターの報道で明らかになっており、業界の自主規制の実効性に疑問符が付いている。
TechFeed読者への視点
Solomonの提言は、「誰が責任を取るかをシステム設計の段階で明文化せよ」というガバナンス原則を、金融大手のCEOが経営レベルで発信した点に意義がある。AI導入を検討・推進するエンジニアや技術リーダーにとって、これは「使いやすいツールを選ぶ」フェーズから「組織として誰が最終判断を下し、その結果に責任を負うか」を設計するフェーズへの移行を求めるメッセージとも読める。自主規制の実効性が問われる今、こうした経営者発の原則論が業界標準の形成にどう影響するかは、引き続き注視すべきテーマだ。
詳細はGoldman Sachs CEO Says Individuals Must Be Held Accountable for AI Failuresを参照していただきたい。




