10月28日、It's FOSSが「Rocky Linux Creator Built a New "Not Linux" Kernel in 11 Days Using AI」と題した記事を公開した。この記事では、Rocky Linux創設者のGregory KurtzerがAIエージェントを使い、わずか11日間でLinux互換の新カーネルをゼロから構築したプロジェクトについて詳しく紹介されている。
AIが13万9千行のカーネルコードを書いた
核心から述べる。OpenAI CodexエージェントがGPT-5.6 Solを使い、11日間で約13万9千行のコードを生成し、1,000以上のコミットを積み上げた。 その成果物は、Rustで書かれたx86-64カーネルであり、Rocky Linux 10をsystemdのmulti-user.targetまで起動させることに成功している。
人間がやったことは何か。Gregory Kurtzerがアーキテクチャの設計、制約の定義、マイルストーンの設定、受け入れ基準の策定を担い、AIエージェントが「コードを書く→起動する→テストする→失敗を診断する→修正する」のループを回した。Kurtzerはこの手法をHDAE(Human-Directed Agentic Engineering) と名付け、Zenodoに技術レポートとして公開している。
HDAEとは、AIエージェントに自律的にコードを書かせつつ、アーキテクチャ判断・品質基準・方向修正といった高次の意思決定を人間が一貫して握り続ける開発手法だ。単に「AIに丸投げする」のではなく、エージェントの反復ループを人間が設計・監督することで、複雑なシステムソフトウェア開発を現実的な期間に圧縮する点が新規性といえる。
「AIにカーネルを書かせた」と聞くと単純に聞こえるが、実態は違う。カーネル設計を知り尽くした人間がエージェントを方向づけ続けた結果だ。KurtzerはCentOSを作り、Red HatがCentOSを実質的に廃止した際にはRocky Linuxを立ち上げた人物である。数十年のシステムソフトウェア経験があってこそ、エージェントが正しい方向に走れた。
Ginuxとは何か
プロジェクト名は**Ginux**。GNUとLinuxの合成語のように見えるが、そうではない。READMEには「Gは公式にはGPTの略だ(自分のエゴを抑えるために)」とKurtzer自身がジョークを書いている。
技術的な特徴は以下の通りだ。
- Linuxカーネルのフォークではなく、独自のメモリ管理・スケジューラ・プロセスモデル・ファイルシステム・ネットワーク・デバイスサポートをゼロから実装
- Linux ABI(コンパイル済みプログラムがカーネルと通信するバイナリインターフェース)を実装しており、既存のLinuxバイナリを無改変で実行可能
- 単一の
GINUX.EFIイメージとしてビルドされ、UEFIから直接起動(Linuxホストカーネル不要) - OCI(Dockerイメージ等)のコンテナイメージを取得・検証してドメインのルートファイルシステムとして使用可能
- Alpine Linux上のmuslやBusyBoxも動作確認済み
「LinuxはGinuxが外部に見せる『パーソナリティ』であり、内部で動くカーネルではない」というのがプロジェクトの説明だ。
現状の制約
過度な期待は禁物だ。現時点でGinuxが動くのはQEMUの仮想マシン上のみであり、物理ハードウェアへの対応、GPU・NVMeサポート、独立したセキュリティ監査はいずれも未実施だ。ライセンスはApache 2.0で、研究プロトタイプという位置づけであり、本番利用やLinuxの置き換えを意図したものではない。
Kurtzer自身の見解
Kurtzerはこの成果を過剰に売り込もうとしていない。本人はこう述べている。
AIは複雑なシステムソフトウェアを生成できる。しかし、互換性・セキュリティ・ハードウェアサポート・標準・コミュニティ・長期的なメンテナンスこそが本当の参入障壁だ。
VMでsystemdが動く程度でLinuxが脅かされることはない。数十年分のハードウェア対応、コードレビュー、コミュニティの蓄積はAIが11日で生み出せるものではないという認識だ。
ただし、それを踏まえてもこの事実は残る。エンタープライズディストリビューションを起動できる新カーネルが、GPT-5.6 Solを使い11日間で完成した。 深い専門知識を持つ個人がフロンティアAIエージェントと組んだとき、かつて大規模チームと数年を要したプロジェクトが数日のサイドプロジェクト規模に縮む可能性を示した事例だ。
詳細はRocky Linux Creator Built a New "Not Linux" Kernel in 11 Days Using AIを参照していただきたい。




