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Deep Dive

オランダが公務員2万5千人をAIで削減へ — 組合・技術主権・業務増加という三重の壁

10月27日、Los Angeles Timesが「This government is testing whether AI can replace civil servants」と題した記事を公開した。オランダ政府がAIを活用して公務員2万5千人を削減する世界最大規模の行政効率化計画の実態と、それを阻む三重の障壁について詳報している。

10月27日、Los Angeles Timesが「This government is testing whether AI can replace civil servants」と題した記事を公開した。オランダ政府がAIを活用して公務員2万5千人を削減する世界最大規模の行政効率化計画の実態と、それを阻む三重の障壁について詳報している。


オランダ、公務員の15%をAIで代替へ

オランダ政府は、2035年までに公務員を約15%削減し、年間35億ユーロ(約39億ドル)の歳出削減を目指すと発表した。警察・防衛部門は対象外だが、省庁や監督機関、実施機関では**最大60%**の人員削減が見込まれている。

Bloombergの試算によれば、これを米国に換算すると約15万人の雇用削減に相当する。これは2025年にイーロン・マスク率いるDOGE(Department of Government Efficiency:政府効率化を掲げてトランプ政権下で設置された非公式組織)が実施した連邦職員削減数の約半分にあたる規模だ。英国換算では約7万5千人、フランスでは約5万人超に相当する。

背景には、政府肥大化への反発がある。オランダの政府職員数は2018年から2025年の間に41%増加した。英国でも過去10年で公務員数が3分の1以上増え、50万人を超えている。

※編集部の考察:日本でも総務省がAI・デジタル技術を活用した行政効率化を推進しており、デジタル行財政改革の文脈でAI導入による業務効率化が議論されている。ただし日本の場合、公務員の純減を明示的な目標に掲げた計画は現時点では存在しない。オランダの事例は、行政DXを「効率化」から「人員削減」へと踏み込んだ先行事例として注目に値する。


政府のAI活用は、まだ「パイロット段階」

民間企業では2022年のChatGPT登場以降、AI活用による人員削減が相次いで発表されてきた。しかし政府機関のAI活用はその「後塵を拝している」というのがOECDの2025年9月報告書の見方だ。多くのイニシアチブは依然としてパイロット段階にとどまっているという。

その遅れ具合は具体的な事例に如実に表れている。英国のAI担当大臣Kanishka Narayanが介入するまで、英国の公式AIガイダンスは「プロンプトを短くする」「小さいモデルを使う」「『ありがとう』と言わない」といった内容だった。さらに、英国環境省から提供されたガイダンスにはいまだに「Google Bard」の名称が記載されており、このブランドがGeminiに統合されたのは約3年前のことだ。

フランスは10カ月間の試験運用を経て、全公務員に会話型AIアシスタントを展開すると6月に発表した。試験段階では文書作成時間が約12%短縮、文書要約では16%短縮という結果が出た。ただしフランス政府は「公務員を代替するAIや、市民と行政の関係を非人間化するAIは認めない」と明言している。


AIが「業務を増やす」逆説

政府機関のAI活用に立ちはだかるもう一つの課題が、AIによる業務量の増加だ。

ベルリンのHertie SchoolのChris Schmitzらが8月に発表した研究では、11カ国・84件の「エージェント的氾濫(agentic flooding)」事例が記録された。これはAIエージェントが自律的に大量のアクションを実行できる性質を悪用した攻撃的利用の一形態であり、具体的にはAIチャットボットが法律用語を駆使した苦情文や訴訟申請などを自動大量生成し、政府機関に送りつける現象を指す。従来の迷惑メールや大量申請とは異なり、個別案件として法的に処理せざるを得ない形式を取るため、行政側の対処コストが格段に高い点が特徴だ。手数料を課すなどの対処法は、正当な申請者を排除するリスクも伴うと研究者らは警告する。

INGのチーフエコノミストMarieke Blomはオランダの計画について、「過去の公務員削減の後には採用増が続いてきた」と指摘し、「AIは政府の人員を減らせるかもしれないが、AI生成の苦情が行政を攻め立てるといった『需要』も生み出しうる」と述べた。


組合・主権・政治的現実

削減を実現する上での障壁は技術面だけではない。

労働組合の壁: 高所得国の公務員における組合加入率は、民間労働者の平均の2倍以上に達する。米国の連邦職員は4人に1人以上が組合員(民間全体は10人に1人)、韓国では公務員の3分の2が加入している(民間は13%)。

技術主権の問題: 欧州には最先端のAIモデルがほとんど存在しないため、米中製品に行政を丸投げすることへの懸念も根強い。オランダは国内・欧州サプライヤーを優先すると表明しているが、英国では米国クラウド企業への依存が政治問題化しており、医療データをPalantirに委ねる3億3千万ポンドの契約も価値対効果やデータセキュリティの面で批判を受けている。

「AI」は都合のよい看板か: 労働党のAnneliese Dodds議員は「リストラの理由としてAIを『パフォーマンス的に』挙げる企業が増えている」と指摘する。「すでに人員削減は決まっていたが、AIという言葉を使えば先進的に見えると思われているのかもしれない」と同議員は語った。


政府がAIで効率化を図るという構想は、技術的な実現可能性より先に、政治・労働・主権という三重の障壁に直面している。オランダの計画がどこまで実現するかは、2035年という期限に向けてまだ不透明だ。

詳細はThis government is testing whether AI can replace civil servantsを参照していただきたい。