11月2日、pbxscience.comのFelix Riesenberg氏が「Anthropic Manager Retires the Coding Interview: "Hunger Beats Tenure"」と題した記事を公開した。Claude.aiやClaude Code Desktopの開発を率いるAnthropicのエンジニアリングマネージャー・Felix Rieseberg氏(末尾g)が、自チームのコーディング面接を廃止したことを表明したブログ記事「Hunger beats tenure: Advice for junior engineers」を紹介したものだ。AIがアルゴリズム問題を人間より上手く解いてしまう今、何を採用基準にすべきか——その問いへの一つの答えが示されている。
「コーディング面接は死んだ」——AnthropicのEMが宣言
Rieseberg氏が2025年10月27日に公開したブログ記事の中で明言した廃止の理由は明快だ。短いコーディングチャレンジはかつて、問題を素早く定義して解法を見つける力を測る指標として機能していた。しかしClaudeは今や、簡単なReactの演習やアセンブリ言語の問題を大半の人間よりうまく解いてしまう。そうなると、候補者にそれを問う意味は薄い。Rieseberg氏は「インパクトを出せるエンジニアは、そういったテストのスコアとは無関係に成果を上げてきた」と書いている。
なお、この決定はAnthropicという会社全体の方針ではなく、Rieseberg氏自身の採用における個人的な判断である。
「経験年数」より「熱量」——キャリア初期のエンジニアへの逆説的な励まし
AI脅威論が席巻するなか、Rieseberg氏は真逆の立場をとる。経験の浅いエンジニアがAIを武器に、ベテランを追い越す場面を目の当たりにしてきたというのが根拠だ。フレームワークやライブラリの習熟年数が、インパクトを左右する度合いはかつてより小さくなっている、と氏は言う。
記事の対象読者を氏は「junior engineer」と呼びつつも、より正確には「社会的資本も、地位も、権力も持っていないエンジニア」だと定義している。
新参者の強みと弱み——歴史的な裏付けと自身の失敗談
Rieseberg氏は、新参者が持つ「外部者の目線」の価値を複数の事例で説明する。
- Stripeの共同創業者Patrick Collisonは、入社間もない社員に「奇妙に感じることに注目せよ」と促していた。ベテランが気づかなくなった摩擦を新人が発見できると踏んでいたからだ。
- 組織理論家のJames Marchは1991年の論文で、「組織は無知で素朴な人材の継続的な流入に依存している」と論じた。新参者の「知らないこと」そのものが組織の探索能力を保つ、という主張だ。
- 映画監督のオーソン・ウェルズは、型破りなカットを試みる度胸の源を「無知」だと答えている。職業を深く知るほど、人は慎重になっていく、と。
一方でRieseberg氏は自身の失敗談も明かしている。Notionに入社した直後、オフィスにライブダッシュボードを映す大型テレビを設置しようとしたが、社内の抵抗に遭ってあきらめた。1年後、Ji Peiという新入社員が同じ提案をすると、翌日にはテレビが設置されていた。「そのときには、自分がすでに古株になっていた」とRieseberg氏は書いている。
新参者の問題は、アイデアを持っていても発言権がないことだ。しかし氏は「実行コストがもはや高くない」という点に活路を見出す。
Rieseberg氏が示す5つの行動指針
氏が示す指針は抽象論にとどまらず、「どう動くか」に踏み込んでいる点が特徴的だ。バックログをこなすのではなく経営レベルの目標を把握し、それを劇的に前進させるアイデアをプロトタイプとして週末で形にせよ——という一連の流れは、承認プロセスを経ずに存在感を示す手順として機能する。
- バックログではなくビジネスインパクトを選ぶ。 自分のマネージャーの上司が何を目指しているかを把握することが、目指すべき高さを知る近道になる。
- ラジカルなアイデアを選ぶ。 その目標を劇的に前進させるアイデアを考え、野心的に。
- 週末で作る。 PRD(プロダクト要件定義書)や承認会議を経ずに動くプロトタイプを出すことで、キューを飛び越えられる。
- 1つのアイデアに絞る。 優れたアイデアを20個の凡庸なアイデアに埋もれさせてはいけない。リーダーシップに伝わるのは、1つのアイデアとそれを実行できる人物像がセットで見えたときだ。
- 新鮮な視点を武器にする。 ユーザー向けプロダクトでは外部者感覚が活きる。インフラや開発ツールでは「それは無理だ」という先入観がない分、突破口を開きやすい。
実例:Claude Code Desktopの誕生
Rieseberg氏が挙げる最も強力な証拠は、Anthropic社内からのものだ。Claude Codeはコマンドラインツールとして定着していたため、GUIプロトタイプを作ろうというアイデアはなかなか出てこなかった。それを比較的新しいエンジニアのAnthony Morris氏とAlice Zhao氏が、1つの週末で動くGUIプロトタイプとして実装した。最初のパブリックバージョンはそこから約8日後にリリースされ、現在では広く使われるプロダクトになっている。
コーディング面接の代替は、まだない
Rieseberg氏は正直に認めている。完全な代替手段はまだ見つかっていない、と。現時点では、履歴書やポートフォリオから「センスと共感力と筋の通った思考」が見える小さなプロトタイプを探しているという。より良いアプローチを持つ読者に向けて、共有を呼びかけている。
コーディング面接の復活は想定していない。アルゴリズムやデータ構造の本を買い込んでキャリアアップを目指した世代への郷愁は理解しつつも、その消滅はソフトウェアエンジニアリングが抽象化の上位レイヤーへ移行する過程の一段階だ、と氏は位置づける。
なお、The Registerの報道によれば、コーディングテストは業界全体では依然として広く使われている。ZipRecruiterの労働経済学者Nicole Bachaud氏は、テック企業は依然としてコーディングスキルをテストする可能性が最も高い業種の一つだと述べている。Rieseberg氏の決断はあくまで一人のマネージャーの個人的判断だが、最も広く使われているAIコーディングツールを作るチームからの発言として注目を集めている。
詳細はAnthropic Manager Retires the Coding Interview: "Hunger Beats Tenure"を参照していただきたい。




