10月28日、Aarti Borkarが「The CISO's evolving role: Protecting and defending in the agentic era」と題した記事を公開した。AIエージェントが企業全体に急速に広がる中でCISOに求められる役割の変化と、具体的な対応指針について詳しく紹介されている。
Microsoft 365でエージェント数が1年で15倍に
記事を書いたAarti Borkarは、MicrosoftのCorporate Vice President(セキュリティ担当)を務める人物だ。
その冒頭で示された数字が端的に状況を表している。Work Trend Index Annual Reportによると、Microsoft 365エコシステム上のアクティブなAIエージェント数は前年比15倍、大企業に限れば18倍に達した。
問題は速度だけではない。エージェントを構築・デプロイしているのは、セキュリティを専門とするエンジニアではなく、「数年間コードを書いていなかった」あるいは「コードを書いたことがない」一般社員だ。こうした人々は「市民開発者(citizen developer)」と呼ばれ、ローコード・ノーコードツールを活用してシステムやアプリを構築する非技術職の社員を指す。善意で作られたエージェントであっても、アクセス権と動作が適切に管理されていなければリスクの入口になる。
Borkarはこの状況からCISOに課せられた仕事を2つに整理する。①AIエージェントを通じて動く企業を守ること、②AIを使って攻撃を高速化している敵に対して、防御のやり方自体を変えること。記事全体はこの2軸を中心に構成されており、ビルダーへの指針もCISOへの指針も、最終的にはこの役割進化という一点に収束している。
「エージェントには固有のIDを与えよ」──ビルダーへの指針
記事では、エージェントを構築する開発者・市民開発者向けのセキュリティ指針が3点示されている。
1. エージェントに固有のIDを割り当てる
個人のクレデンシャルや共有アカウントではなく、ガバナンスされたIDをエージェントに付与する。何か問題が起きたとき「どのエージェントがやったか」を特定し、即座に無効化できる状態にすることが前提だ。
2. エージェントが触れるデータを保護する
「エージェントはあなたのように考えない。適切な判断力も、何が不適切かという感覚も持っていない」とBorkarは書く。アクセス可能な情報はすべて使われると前提に置き、接続前にデータ保護を整えるべきだと指摘する。
3. CISOに早期に相談する
構築してから報告ではなく、構築する前にIDとデータの設計を共有する。これがCISOにとって最も助かる行動だという。
CISOの2つの仕事:「ガードレール」と「防御の刷新」
ビルダーへの指針は、そのままCISOが整備すべき体制の裏返しでもある。Borkarはここから、CISOが集中すべき2つの仕事へと論を進める。
①ガードレールの整備
CISOの最初の仕事は、イノベーションを止めずに安全に進める「ガードレール」を敷くことだ。Borkarが特に重視するのは以下の2点で、「この2つについては一切妥協しない」と明言している。
- オブザーバビリティの深化:どのエージェントが存在し、誰がオーナーで、何にアクセスでき、何をしているかを把握する。エージェントの挙動変化を検知し、小さな問題が大きな問題になる前に介入できる体制が必要だ。
- IDとデータの管理:すべてのエージェントには必要最小限のアクセス権のみを持つガバナンスされたIDを付与し、触れるデータを分類・保護する。この2つが整えば、他の多くの判断が容易になるとしている。
エージェントのガバナンスへの具体的なアプローチは別記事でも詳述されている。
②防御の刷新
Microsoft Digital Defense Report 2026によれば、攻撃者がAIを使うことで防御側が対応できる時間は大幅に圧縮されている。
ここでBorkarが強調するのは「速いツールに乗り換える」ことではなく、「情報をアクションに変えるプロセス全体を変える」ことだ。アイデンティティ、エンドポイント、アプリケーション、クラウド環境をまたがるシグナルを脅威インテリジェンスや組織のコンテキストと統合し、全体像を把握できる体制を作る。攻撃は単一の場所に現れるのではないため、バラバラなシグナルをつなぐ統合が前提となる。
また、防御においてもエージェントの活用を挙げている。Microsoftは統合セキュリティオペレーションとエージェント型防御を組み合わせる取り組み(Project Perception)を進めており、アナリストと並走してエージェントが調査・対応を行う形を目指している。
CISOの役割進化──守り方そのものが変わる時代へ
Borkarの結論はシンプルだが、その含意は重い。AIで構築するなら、IDとデータの設計をセキュリティチームと構築前に話し合う。CISOなら、「ガードレール整備」と「防御の刷新」という2つの仕事に集中し、両方に適切なパートナーを持つ。
この2つは独立した課題ではなく、表裏一体だ。市民開発者が急増する組織でガードレールを整備することは、そのままAI時代の防御基盤を築くことでもある。エージェントが企業インフラの一部として当然のように稼働するようになった今、セキュリティの議論は「エンジニアやセキュリティ専門家の話」から「AIで何かを作るすべての人の話」へと構造的に変わった。CISOの役割進化とは、その変化を組織全体に実装していくことに他ならない、とBorkarは論じる。
詳細はThe CISO's evolving role: Protecting and defending in the agentic eraを参照していただきたい。




