11月2日、Inside AIが「Nuclear Reactors Under Construction Hit 79, Highest in 40 Years, as AI Demand Surges」と題した記事を公開した。AIが原子力を「救っている」という逆説的な構図が、今この産業に起きている。データセンターの電力需要が爆増し、テック企業が原子力との長期契約に殺到する一方、新規原子炉が実際に電力を供給できるのは早くとも5〜7年後だ。需要の爆発と供給の構造的遅延というタイムラグの問題を、本記事は鋭く描き出している。
建設中の原子炉、世界で79基に
世界原子力協会(World Nuclear Association)によると、現在世界で建設中の原子炉は79基に達した。これは過去40年間で最高の水準だ。2026年だけで11基が新たに着工しており、業界全体が明確な回復軌道に乗っている。
この数字が象徴するのは、2011年の福島第一原発事故以降に停滞した原子力産業の復活だ。事故後の約15年間、各国は安全性コストの問題から原子力拡張に慎重な姿勢を取り続けてきた。それが今、気候目標とAIの電力需要という二つの圧力によって方向転換を迫られている。
※編集部の考察:2000年代にも「原子力ルネサンス」と呼ばれる建設ブームの機運が一度高まったが、2008年の金融危機とシェールガス革命による電力価格の低下、そして2011年の福島事故によって失速した経緯がある。今回の波はAIという新たな需要ドライバーと気候目標が重なる点で、前回とは構造的に異なる可能性がある。
AIの電力消費がエネルギー戦略を塗り替える
国際エネルギー機関(IEA)の推計では、データセンターの電力消費量は2022年時点で約460テラワット時(TWh)であり、この数字が2026年までに倍増する可能性があるとされている。
特に問題となるのがAIの学習処理だ。大規模言語モデル(LLM)の1回の学習で消費する電力は、一般家庭100世帯分の年間電力量に相当するとされる。この規模の電力を24時間365日安定供給できるソースとして、設備利用率が高くCO2排出量がゼロの原子力が改めて注目されている。
すでに米国では複数のテック企業が原子力発電所と長期電力購入契約(PPA)を締結している。英国、フランス、中国も原子力の拡充を進めており、エネルギー政策における原子力の位置づけは世界規模で急速に変わりつつある。世界原子力協会のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は次のように述べている。
「原子炉建設の増加は、クリーンで安定した電力需要への直接的な応答だ。AIはベースロード電力需要のゲームチェンジャーになっている。」
ただし、「今すぐ」には間に合わない
楽観論の一方で、記事は構造的な問題を明示している。
米国で最近完成したジョージア州ボーグル原子力発電所は、完成まで7年の遅延と数十億ドルの予算超過を招いた。英国のヒンクリーポイントCも同様の状況にある。新規原子炉が稼働するまでには最低でも5〜7年かかる計算であり、今この瞬間に急拡大しているAIの電力需要には間に合わない。
記事は「79基の建設は重要な供給増をもたらすが、現在のグリッドの逼迫には対応できない」と指摘している。AIデータセンターの電力不足は今後数年で深刻化する見通しであり、この「需要と供給のタイムラグ」こそが、業界が直面している最大のジレンマだ。
小型モジュール炉(SMR)が補完策として浮上
より短期的な解として注目されているのが、**小型モジュール炉(SMR)だ。出力300MW未満**のこの炉型は工場で製造・輸送が可能で、従来型に比べて建設期間が短い。
NuScale PowerやRolls-Royce SMRなどが2020年代後半の実用化を目指して開発を進めている。MicrosoftはConstellation Energyと提携し、バージニア州のデータセンターへの原子力電力供給計画を発表している。Googleも2030年までにデータセンターをカーボンフリーエネルギーで運用する目標を掲げており、原子力はその有力な選択肢となっている。
政府側の動きも活発だ。米エネルギー省(DOE)は先進的原子力プロジェクト支援に60億ドルを投じるプログラムを立ち上げ、EUは原子力を「グリーンタクソノミー」(持続可能な投資対象)に含めた。
建設中の原子炉数では中国が23基でトップ、インドが7基、ロシアが4基と続く。米国は現在2基の建設中にとどまるが、複数の追加計画が進行中だ。
課題:サプライチェーン・人材・規制
楽観論を打ち消す課題も並行して存在する。部材のサプライチェーン問題、熟練技術者の不足、規制当局の審査の遅さが建設ペースの足かせになりうる。米国の**原子力規制委員会(NRC)**は承認プロセスの遅さを批判されており、SMRを含む新型炉の審査体制の整備が急務となっている。一部地域では福島事故以降の根強い公衆反対も残る。
それでも、気候変動の緊迫性とAI経済が生み出す巨大な電力需要が、政策・投資・世論の三つの面で社会的態度を変えつつある。「79基」という数字は単なる統計ではなく、エネルギー地政学の重心が再び原子力へと移動していることを示す指標として読むべきだろう。AIが原子力産業の命綱になるという構図は、5年前には予測しにくかった展開だ。その逆説的な関係がどこへ向かうのかは、今後のエネルギー政策と技術開発の両輪にかかっている。
詳細はNuclear Reactors Under Construction Hit 79, Highest in 40 Years, as AI Demand Surgesを参照していただきたい。




