11月3日、The Decoderが「Goldman Sachs pulls AI coding tools from traders and bankers」と題した記事を公開した。ゴールドマン・サックスがトレーダーやバンカーからAIコーディングツールのアクセスを剥奪し、利用をエンジニアのみに限定したという内容だ。
「実験フェーズ終了」——ゴールドマンがClaude CodeとGitHub Copilotを非技術職から撤収
驚くべきは撤回そのものではなく、そのタイミングだ。つい数ヶ月前、同社のCIOが非技術職によるAI活用を公の場で絶賛していたにもかかわらず、今回の方針転換は静かに、しかし完全な形で実施された。大手金融機関によるAIツールの積極推進と急速な撤回という落差は、エンタープライズにおけるAI導入の現実を鮮明に映し出している。
ゴールドマン・サックスが、AnthropicのClaude Code(Anthropicが2025年にリリースしたターミナル統合型AIコーディングエージェント)とMicrosoftのGitHub Copilot(GitHubが提供するAIペアプログラミングツール。コードの自動補完・生成を行う)を、トレーダーやバンカーなど非技術職の社員から利用不可にした。Bloombergが10月付けの社内ガイドラインを引用して報じた内容によれば、引き続きアクセスできるのはエンジニアのみとなっている。
元記事によれば、非技術職のスタッフは数ヶ月間にわたってこれらのツールを業務に活用していた。この撤回は社内で不満を引き起こしているとも伝えられている。
わずか数ヶ月前には「バイブコーディング」を絶賛していた
この方針転換が際立つのは、ゴールドマンが直前まで真逆のスタンスを取っていたためだ。
今年7月、同社のCIO(最高情報責任者)Marco Argentiはインタビューの中で、非技術職スタッフによる「バイブコーディング」(vibe coding:AIに自然言語で指示を出しながら直感的にコードを生成する手法)を公に称賛していた。トレーダーや資産運用担当者がアイデアをAIで素早くプロトタイプ化し、エンジニアに渡してスケールさせる——というワークフローを推奨していたのだ。
それがわずか数ヶ月で完全に撤回された形となる。
理由は「生産性とリスク管理」
なぜ方針転換したのか。Bloombergの取材に対し、ゴールドマンの広報担当Nick Carcaterraは「生産性やリスク管理を含む複数の要因」とだけ述べた。具体的な内容は明らかにされていない。
同氏はさらに、実験フェーズはすでに終わっており、今後はツールを「長期的に最大限活用できる人材」に限定していくと説明した。
金融機関がAIツールの利用範囲を技術職に絞るという動きは、ゴールドマンが初めてではない。過去にはJPモルガン・チェースがChatGPTへの社内アクセスを制限したことが報じられており、当時もコンプライアンス上の懸念が主な理由とされた。ゴールドマンの今回の判断の背景にも、コンプライアンスリスク、機密情報の漏洩懸念、あるいは非技術職が生成したコードの品質管理問題が存在する可能性は高い。ただし、同社は具体的な理由を公表していない。
エンタープライズAI導入の現実
今回の件は、大企業におけるAIツール導入の難しさを端的に示している。
「まずは広く展開して様子を見る」という初期フェーズから、「本当に効果があるユーザーに絞り込む」フェーズへの移行は、ゴールドマンに限らず多くの企業で起きつつある動きだ。特に金融機関の場合、規制対応や情報管理の厳格さから、非技術職が自由にAIでコードを書いて使える環境を維持することには根本的な難しさがある。
CIOが公の場でバイブコーディングを称賛してから数ヶ月でのロールバックという事実は、掛け声と現実の運用の間にある距離を如実に示している。AIツールの社内展開において「誰に使わせるか」という問いが、「何を使わせるか」と同等かそれ以上に重要であることを、ゴールドマンの事例は改めて突きつけている。
詳細はGoldman Sachs pulls AI coding tools from traders and bankersを参照していただきたい。




