11月1日、madrobot.blogが「Claude will hide a watermark in text from older models too, starting Tuesday」と題した記事を公開した。AnthropicがClaudeの旧モデル群に対しても11月3日からテキストウォーターマーク(透かし)を適用するという内容だ。この透かしは文章に何も付け足さず、単語選択の統計的パターンに埋め込まれる——つまり読者には一切見えないまま、鍵を持つ者だけが検出できる仕組みである。EU AI法への対応として旧モデルへの展開が急がれる一方、一般ユーザーはその存在を確かめる手段を持たない、という非対称性がこの施策の核心にある。
ウォーターマークの仕組み
Anthropicが2024年8月に公開した解説によると、この透かしの原理は「同等の単語選択肢がある場面での統計的なバイアス」にある。
たとえばClaudeが "The weather today was cold and" の次に "overcast" か "grey" かを選ぶとき、通常はランダムに決まる。ウォーターマークが有効な場合、秘密鍵と直前の数単語から決定論的に選択肢が決まる。これが長文全体に積み重なることで、鍵を持つ者だけが検出できる統計的パターンが形成される。
Anthropicはこの手法を「テキストへの追記なし、隠し文字なし、追加トークンコストなし」と説明している。また「個人・組織・チャット履歴の特定につながる情報は含まれない」としており、内部テストでは文章の品質や可読性への影響も確認されていないという。
技術的には、Googleが2024年のNature論文で発表したSynthID-Textをベースにしている。SynthID-TextはGoogleがテキスト・画像・音声・動画を横断して開発しているAIコンテンツ識別技術群の一つで、トークン生成時の確率分布に微細なバイアスを加えることでウォーターマークを埋め込む手法を採る。
対象モデルと適用範囲
11月3日から新たにウォーターマークが付与されるのは以下の4モデルだ。
- Claude Mythos 5(Anthropicが内部的に使用するコードネームとみられるモデル)
- Claude Opus 4.7
- Claude Opus 4.6
- Claude Sonnet 4.6
加えてヘルプページには、Claude Opus 4.5・Sonnet 4.5・Haiku 4.5も対象としてチェックが入っているが、こちらは適用開始日が明記されていない(Sonnet 4.5は11月30日に退役予定)。
一方、Claude Opus 4.8〜Opus 5.5・Claude Fable 5.1(いずれも比較的新しいモデルラインナップ)はすでに対応済みだ。
重要な制約がある。 旧モデルへの適用はAnthropic自身のサービス(Claude app、Platform API、Claude Code、Claude Cowork、Claude Tag)に限定されており、AWS・Google Cloud・Microsoft Foundry経由で同じモデルを使う場合は現時点では対象外だ。Opus 5.5などの新モデルはすべての経路で対応済みであり、旧モデルとの扱いの差が生じている点は開発者が把握しておくべきだろう。
地域については「地域で絞り込む確実な方法がまだない」として、全世界一律に適用される。
なぜ今これをやるのか——EU AI法への対応
背景にあるのはEU AI法(EU AI Act)への準拠だ。Anthropicは2025年7月にEUの「AI生成コンテンツの透明性に関する実践規範(Code of Practice)」に署名している。
同法には2026年8月2日以前にリリースされたモデルに対する移行期間が設けられており、これが旧モデルへの対応が後回しになっていた理由だ。OpenAIも同様のアプローチを採っており、すでに欧州のChatGPTにウォーターマークを導入している。
ウォーターマークが「証明できないこと」
Anthropic自身が限界を率直に認めている点は重要だ。
- ウォーターマークが検出されたとしても分かるのは「Claudeがその時点でコンテンツに関与した可能性が高い」ことだけで、「Claudeが書いた」と「Claudeが大幅に編集した」の区別はつかない。
- 軽い編集では透かしは残るが、全単語を置き換える完全な書き直しを行えば消える。
- 短い文章や、コード・事実確認・軽校正のような「語彙の自由度が低いテキスト」は透かしが薄くなる。
- 透かしが検出されないことは、AI非使用の証明にはならない。
これらの限界は、ウォーターマークを「証明ツール」としてではなく「確率的な手がかり」として位置づけるAnthropicの姿勢を反映している。
誰が検出できるのか
一般には公開されていない。Anthropicの検出APIはプライベートプレビュー段階であり、アクセスできるのは規制当局・法執行機関・メディア・ファクトチェッカー・独立研究者・教育機関・EUシビルソサエティ団体、および自社コンプライアンスのために確認が必要な企業に限られる。
GoogleはSynthID Detectorを一般公開しており、AnthropicとGoogleのアプローチは対照的だ。教師が学生のレポートを今すぐ貼り付けて確認する手段は今のところ存在しない(教育機関は対象リストに入っているため、将来的にはアクセス申請が可能)。
Anthropicの無料ファイルチェッカーは画像等のContent Credentialsを読むもので、テキストのウォーターマーク検出とは別物だ。
Claude Opus 4.7・Opus 4.6・Sonnet 4.6は依然として多くのアプリや企業で現役のモデルであり、11月3日以降これらが生成したテキストはAnthropicが許可した組織によって検証可能になる。ただし透かしは確率的な指標であり、断定的な判断材料ではないことをAnthropicも明示している。一般ユーザーには見えず、検出も申請制——この非対称な構造が今後どう評価されるかは注目に値する。
詳細はClaude will hide a watermark in text from older models too, starting Tuesdayを参照していただきたい。




