11月4日、madrobot.blogが「Google's AlphaChip creators say they built America's best open coding AI for $32 million」と題した記事を公開した。GoogleのAlphaChip共同開発者が創業したRicursive Intelligenceが、総開発費3,200万ドルでアメリカ最高水準のオープンウェイトコーディングAI「Ripple-65B」を構築したと主張していることを詳しく紹介している。
10倍小さい予算で、10倍大きいモデルに並ぶ
Ricursive Intelligenceが公開したRipple-65B Previewの最大の売りは、コスト効率だ。同社によれば、総開発費(初期実験・データ整備・評価・デバッグ・最終訓練を含む)は3,200万ドル。Sam AltmanがGPT-4の訓練費用は「1億ドル超」と述べた発言や、競合のReflection AIがSpaceXのColossusで月1億5,000万ドルの計算資源を確保したとの報道と比較すれば、その桁の違いは明確だ。
強化学習の試行回数は140万回で、競合のBeamが要した回数の約70分の1。ポスト訓練用データは外部購入せず、自前で合成データを生成した。ベースとなった訓練レシピは、Allen Institute for AIのオープンモデル「Olmo 3」だ。
モデルの中身
Ripple-65Bは密結合(dense)アーキテクチャ、パラメータ数650億、訓練トークン数12兆、コンテキストウィンドウは最大100万トークンという構成だ。
現在主流の大規模モデルの多くはMixture-of-Experts(MoE)設計——各トークンの処理にパラメータの一部だけを使う方式——を採用しているが、Rippleはすべてのパラメータを毎回使用する。Ricursiveはこれが高い推論精度と高速な出力を両立させると主張している。
実行に必要なハードウェアはNvidiaのDGX Sparkデスクトップ機で足り、Nvidia B200チップ2枚構成では毎秒250トークンを処理できるとモデルカードに記載されている。
ウェイトはHugging FaceにApache 2.0ライセンスで公開されており、商用利用が可能だ。APIはTogether AI、GMI Cloud、OpenRouter(入力100万トークンあたり$0.20、出力$0.60)から利用できる。
ベンチマークの実態:勝ち負けは領域次第
Ricursiveは、ターミナル上でAIエージェントがコーディング作業をこなす能力を測るTerminalBench 2.1でRippleが80.52を記録し、Reflection AIのBeam(80.1)やMetaのMuse Spark Open(76.4)、Thinking MachinesのInkling(63.8)、NvidiaのNemotron 3 Ultra(56.4)を上回ると主張している。これらの競合モデルはパラメータ数が5,010億〜9,750億と、Rippleの10倍以上の規模だ。
ただし、ベンチマークによってはRippleが劣る領域もある。SWE-bench VerifiedではBeamが81.6対76.5でリードしており、数学・科学・知識テストの大半ではMuse Spark Openが上位だ。また、TerminalBenchを公式のTerminus 2ハーネスで再実行したところ、Beamのスコアが80.1から70.8に低下する一方でRippleは80.5を維持した——という結果をRicursive自身が報告しているが、この数字は独立機関による検証を経ていない点は留意が必要だ。
AlphaChip共同開発者という背景
Ricursive IntelligenceはAnna Goldie(CEO)とAzalia Mirhoseini(CTO)が創業した。両者はGoogleでTPU設計を支援したAI「AlphaChip」の共同開発者であり、Anthropicの初期従業員でもある。なお、AlphaChipはGoogleのプロジェクトであり、両者はその共同開発者という立場で関わっていた。
※編集部注:本文中のAlphaChipリンク先は元記事が参照するDeepMindブログを引用しているが、AlphaChip専用の公式解説ページについては現時点で確認中のため、読者はDeepMindのAlphaChip関連発表も合わせて参照されたい。
創業からわずか4か月で、Lightspeed主導のシリーズAを含む約40億ドルの評価額で3億3,500万ドルを調達した(投資家にはNvidiaも含まれる)とTechCrunchが報じている。
Rippleは同社のチップ設計プラットフォームで内部利用している非公開モデルの汎用版という位置づけだ。GoldieはTechCrunchに次のように語っている。
We could design a computer architecture that's uniquely suited to that model, and we could achieve almost a 10x improvement in performance per total cost of ownership.
— Anna Goldie, CEO, Ricursive Intelligence
中国勢との差は依然残る
Ricursiveの主張は「米国内で最高のオープンウェイトモデル」であり、グローバルでの首位は主張していない。同じ週に、中国のMoonshot AIはKimi K3.1 ProのウェイトをHugging Faceで公開し、TencentはHy4をリリースした。
ただし、両者はTerminal-Bench 4.0(Rippleが使うTerminalBench 2.1とは別バージョン)を報告しているため直接比較はできない。K3.1 Proはパラメータ数2.8兆でデータセンター規模のハードウェアを要するのに対し、Rippleはデスクトップで動作する——スケールとコストの対比が、Ricursiveの差別化軸だ。
詳細はGoogle's AlphaChip creators say they built America's best open coding AI for $32 millionを参照していただきたい。




