11月5日、Ashley Belangerが「Big Tech claims voters' AI backlash is "anti-Trump" not "anti-tech"」と題した記事を公開した。前日11月4日に実施された2026年米中間選挙では、AI・データセンター規制を支持する民意が各州で圧倒的な形で示された。これに対しテック業界側は即座に火消しを図り、その結果を「反AI」ではなく「反トランプ」の波と位置づけようとしている。選挙翌日に公開された同記事は、この対立構図を詳しく報じている。
選挙結果:AIへの民意は数字が物語る
2026年11月4日の米中間選挙は、AI業界にとって想定外の打撃となった。
調査会社Redbud Consultingの集計によれば、10州で実施されたデータセンターを規制する44の住民投票のうち、38が可決された。可決された措置にはモラトリアム(新規プロジェクトの一時停止)や禁止措置が多数含まれており、主に2028年以降の新規プロジェクトに影響する見通しだ(2027年までに承認・着工済みの案件への影響は限定的とされている)。
知事選でも変動は大きかった。テキサス州では民主党のGina Hinojosaが現職を破り、「水・電力・大気・土地権への影響を扱う法律が成立するまでプロジェクトを遅延させる」方針を掲げた。テキサスは2028年の全米データセンター増設容量の41%超を占めると見込まれていた州だ。Bloombergは、Hinojosa当選によって約13ギガワット分のデータセンター容量(データセンター業界では電力消費量を容量の単位として使用する。13ギガワットは大規模な原子力発電所十数基分の発電量に相当する規模感だ)が不確実な状況にさらされたと報じた。
さらにArizona・Georgia・Ohioでも民主党が知事選を制し、Axiosは「2028年のデータセンター容量の約3分の2」が同様の遅延リスクにさらされると試算した。なお、この数字はAxiosによる独自試算であり、公式統計ではない点に留意されたい。
業界団体の反論:「これは反トランプ波だ」
選挙翌日、テック業界からは即座に火消しが図られた。
反論の急先鋒に立ったのは、元Google幹部でテック業界ロビー団体「Chamber of Progress」のCEO、Adam Kovacevichだ。同氏は声明を発表し、「データセンターに反対する民主党知事候補より、反対しなかった候補の方が高い勝率だった」と主張。「反トランプ波と反テクノロジーの民意を混同してはいけない」と訴えた。なお本記事時点で、同様の公式声明を出しているのはKovacevich個人および同団体にとどまり、Big Tech各社が一体となってこの見解を示しているわけではない点に注意が必要だ。
「有権者が求めていたのは経済の変化であり、イノベーションへの締め付けではない」
— Adam Kovacevich(Chamber of Progress CEO)
確かにNBCの出口調査では、生活費や政府腐敗の問題がAIやデータセンターより上位にランクされた。
しかし、The Leadership Conference's Center for Civil Rights and TechnologyのAlejandra Montoya-Boyerはこの解釈に異を唱えた。NBCの調査では4人に3人の有権者がデータセンターに反対しており、さらに過半数の有権者が「AIとデータセンターが議会投票の重要な要因だった」と回答している。Montoya-Boyerは「2026年中間選挙は米国初の真のAI選挙だった」と断言した。
また別のアナリストはAxiosに対し、有権者は「データセンター問題よりも、州によるAI規制を阻止しようとする動きに懸念を示していた」と述べており、4つのスウィング選挙区では「AIエグゼクティブへの説明責任をめぐり、民主党への信頼が共和党を7〜10ポイント上回った」と指摘した。
中国へのメリットとマスクの誤算
AI規制強化の影響は国際競争にも波及する。仏系金融機関NatixisのエコノミストGary Ng Cheuk-yanは南華早報(SCMP)に対し、「米国の減速は中国にとって追い風になりうる」と述べた。米国内のコンピューティングキャパシティに制約が加われば、AIトークン価格が高止まりし、「中国がコスト競争力のある推論サービス(inference:AIモデルが学習済みの知識をもとに回答を生成するサービス)を輸出する機会が生まれる」という見立てだ。
一方、今回の選挙で最大の敗者の一人となったのがElon Muskだ。Quartzによれば、Muskは2026年中間選挙で共和党候補に約5億ドル近くを投じた。しかし有権者は「説得不可能」であることを証明し、テネシー州メンフィスのColossusデータセンターをめぐる汚染訴訟も抱えるMuskにとって、政治的逆風はさらに強まった。
開票が進む中、SpaceXとTeslaの株価は下落した。
Muskは突き進む:13GWという賭け
こうした逆風にもかかわらず、Muskは拡張路線を緩める気配がない。AIインフラ専門の独立系調査ニュースレターSemiAnalysisによれば、SpaceXは2027年のデータセンター容量目標を10GWから約13GWへ引き上げた。
「これは一企業がその期間内に構築した過去最大のデータセンター容量となる見通しだ。Googleが1999年から2026年にかけて積み上げた全データセンター容量にほぼ相当する規模を、わずか1.5年で実現しようとしている」
— SemiAnalysis
こうした拡張計画が経済合理性を持つかどうかは、業界全体でも問われ始めている。業界調査会社Gartnerは、「AIブームはその投資を回収するために約5兆ドル不足している」と推計している(※この推計の詳細な根拠・調査時期についてはGartnerの公式レポートを参照のこと)。規制強化と経済合理性の双方から、AI建設ラッシュは岐路に立たされていると言える。
詳細はBig Tech claims voters' AI backlash is "anti-Trump" not "anti-tech"を参照していただきたい。




