11月5日、Dick Weisingerが「DeepSeek V5 on Huawei Ascend: Training Shift」と題した記事を公開した。DeepSeekが次世代モデルV5の学習にHuaweiのAscendプロセッサを採用する計画が報じられており、その技術的な意味と課題について詳しく分析している。
推論から学習へ——Ascendチップの役割が変わる
STAR Market Daily(上海証券報)が複数の業界関係者の話として伝えたところによると、DeepSeekは次世代モデル「V5」の学習(トレーニング)にHuawei Ascendチップを使用する計画だという。現時点では伝聞ベースの情報であり、DeepSeekおよびHuawei側からの公式発表はない点に留意が必要だ。
これまでDeepSeekのモデルにおいてAscendチップが担っていたのは推論(インファレンス)、つまり学習済みモデルを動かす処理だけだった。学習は計算量が桁違いに大きく、クラスタ全体を高速ネットワークで連携させる必要がある。今回の報道が示すのは、Ascendの用途がその難しい領域に踏み込もうとしているという事実だ。
米国の輸出規制によりNvidiaのH100/H800等の高性能GPUは事実上入手困難な状況が続いており、中国AI企業にとって国産チップへの移行は避けられない選択肢となっている。DeepSeekは以前から自社モデルを中国国産シリコン上で動作させるためのソフトウェア最適化を行ってきた。今回はそのさらに一段階上の移行にあたる。
技術的な核心——ネットワーク性能の壁
記事の分析部分で最も重要な指摘は、インターコネクト(チップ間通信)の問題だ。
大規模モデルの学習では、数千枚のチップが高速ネットワークで同期し続ける必要がある。NvidiaはこのためにInfiniBandを活用した高性能な通信基盤を持っている。InfiniBandはもともとMellanoxが開発した技術であり、現在はNvidiaがMellanoxを買収したことでそのエコシステムに統合されている。Huaweiのネットワーク構成はこの点でスケーリング効率の面で劣るとされてきた。DeepSeekのコードがこのハードウェアの差を埋めきれなければ、ノードの脱落や実効FLOPS(演算性能)の低下というリスクがある。
ただし、DeepSeekはかつてもメモリ制約を独自のアーキテクチャ設計で回避してきた実績がある。たとえばMoE(Mixture of Experts:複数の専門化したサブネットワークを条件に応じて使い分けるアーキテクチャ)やMLA(Multi-head Latent Attention:KVキャッシュを低ランク圧縮することでメモリ効率を高めるアテンション機構)がその代表例だ。今回も「ハードウェアの制約をソフトウェアで突破する」というアプローチを取ると見られている。
今回の報道では以下の重要な詳細がまだ不明のままだ:
- クラスタの規模(使用チップ枚数)
- 採用するインターコネクト技術の具体的な構成
- NvidiaベースのV3/V4学習と比較したときの効率指標
この移行が「本物」かどうかを見極める3つのサイン
記事は、この転換が実際に機能しているかを判断するための指標として以下の3点を挙げている:
- HuaweiがV5学習クラスタの規模を公表するか
- DeepSeekのオープンソースリリースにAscend学習時間が記載されるか
- BaiduやTencentといった他の中国トップラボがNvidiaハードウェアからの移行時期を設定するか
特に3点目は重要だ。DeepSeekの移行が成功すれば、他の中国AI企業がNvidiaへの依存を断ち切る実証事例になる。逆にいえば、V5のパフォーマンスや公開情報の内容が業界全体の移行判断に影響を与える可能性がある。
「防衛的な補助金政策」から「実用フェーズ」へ
記事の分析が指摘するのは、西側メディアが中国の国産チップ採用を「締め出しに対する苦肉の策」として描きがちな点への違和感だ。中国国内では、国産チップの採用は長期的な国家支援を受けるための条件として機能している。DeepSeekのエンジニアにとってこれは「制裁への対応」ではなく、「解くべきエンジニアリング上の難問」として扱われているという見方を記事は示している。
Ascendチップが大規模学習でどこまで通用するのか。V5の学習結果は、中国の半導体自給計画が絵に描いた餅か実用段階かを判断する材料になる。今後の公式発表や技術レポートの内容が、この問いへの答えを左右するだろう。
詳細はDeepSeek V5 on Huawei Ascend: Training Shiftを参照していただきたい。




