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Ask the Professionals

【後編】「変化できる者だけが生き残る」——フィンランドで学んだ、AI時代のキャリア観

「自立できる力こそ、変化への対応力の源泉」――Hajimari・CTOの岡田幸紀(こうき)氏はそう語る。後編では、そんなこうき氏が考える組織変革のリーダーシップ論やAI時代のエンジニア像、身に付けるべきスキルについて聞いた。

「生成AIを導入したのに期待以下だった」——そう感じる組織は25%にのぼるという。技術の進化は速いが、カルチャーは大きな船のように向きを変えられない。後編では、Hajimari・岡田幸紀CTOが、組織変革のリーダーシップ論から、ノキアやフィンランドで得た「変化への適応力」、そしてアリストテレスの「ロゴス・パトス・エトス」を補助線にしたAI時代のエンジニア像までを語る。これからエンジニアは何を学び、どう成長すべきか。読者への力強いメッセージとともに届ける。→前編はこちら


「導入しただけ」では変わらない——CTOに求められる変革の力

― AI時代において、企業のCTOの役割はどう変化していると感じますか。一般論としてのトレンドがあれば教えてください。

岡田:生成AIを買ってきただけ、ツールを導入しただけでは、組織は変わらりません。こうしたことは、どこでも見られると思っています。

PwCが発表したニュースで見たのですけど、生成AIを導入したけれども「期待を下回った」と答える組織が、2024年から7ポイント上回って全体の25%いるらしいです。つまり4分の1の組織が「AIは導入したけど、別に何も変わってないじゃん」と。

つまり、技術のスピードと、カルチャーや社会のスピードはまったく違うんですね。技術は速いけれど、組織やカルチャーは大きな船と一緒で、なかなか方向転換できない。その上で、カルチャーを変えていける力が求められているんじゃないかと思います。これはCTOだけじゃなく、CXO誰でもそうかもしれません。変化が激しい時代だからこそ、その変化を恐れることも大事ですが、果敢に挑んで、全体に発信して、変わっていこうというリーダーシップが求められている。

― まさにカルチャーや組織を変えることが問われているのですね。

岡田:そうですね。たとえばDeNAの南場智子さんは「AIにフルベット」「AIにオールイン」というスピーチで有名です。DeNAは既存事業はもう全部AIに任せて、余った時間で新規事業をどんどん起こしていく。しかも「いかに新規事業を起こしたか」が部署やマネージャーのKPIになっていると聞いています。それで評価される。それぐらい徹底したリーダーシップですよね。

ソフトバンクの孫正義さんは、「ソフトバンク全体で10億ものAIエージェントを作る」と発言された。トップがそこまで言うと、みんな「変わらなきゃいけない」とビリッとなるじゃないですか。10億を社員数で割ったら「自分1人で10個作らなきゃいけないのか」という計算になる。「AIエージェント10個、自分は作れるかな」となる。そういうメッセージとリーダーシップは、すごく大事じゃないかなと思います。


若手エンジニアの「キャリアの不安」にどう向き合うか

― AIを前提にした組織づくりは、岡田さんがジョインする以前の3年前や5年前にはやっていなかったことですか。

岡田:はい。なので、まずはみんなが使う、根付かせるカルチャーを作る。AIのトップのコミュニティに参加したり、元々自分がGoogleにいた縁でGoogleに訪問して勉強会をやってもらったり、そうやって「AIを使うことは必須なんだ」という文化や考え方を根付かせるのは、すごく意識して進めているところです。

ただ、AI推進によるネガティブな面も当然あると思っています。たとえば最近はAIの技術進歩によって、大企業がリストラを始めたとか、「新卒採用の枠を減らす」という企業が全体の4割になるとか、そういうニュースが流れている。そうすると、若いエンジニアほど、すごく不安になります。「自分はどういうキャリアを進んでいけばいいんだろう」と。

そこに対する不安をどうケアするかも、すごく意識しています。答えを出すのは本人ですけど、ヒントやアドバイスはしなければいけないし、そこに対して自分自身の持論がないといけない。そういうところは、やっぱり3年前とは変わりましたね。

フィンランドとノキアが教えた「変化できる者が生き残る」

― 岡田さんは7年間フィンランドで仕事をしていたと伺いました。北欧流の「自立した働き方・生き方」は、AI時代のエンジニアのキャリア観にどう重なりますか。

岡田:フィンランドの7年で学んだことは非常に多いなと思っています。まず思ったことは、人々の自立というマインドセットと、幸福感には何か関係があるんだろうな、ということでした。そして、環境の変化に対して自らチャレンジして勝ち取っていく強さ。北欧の人にはそれをすごく感じたんですね。だから、そういう強いマインドセットを自分自身も持ちたいし、チームにも持ってほしいと思っています。

AIは、結局すさまじい産業の変化です。後で振り返ったときに、産業革命やインターネット革命、馬車が自動車に変わったような変化と同じか、もしくはそれ以上のものなんじゃないかと思うんです。いろんな派生も生まれるし、不安も生まれる。でもその変化の中で「自分はこう考えるし、こういうスタンスでこの変化に適応していく」という強さを、自分もチームも持ちたいと思っています。

― AIに任せていくと、最終的に人間がものを考えなくなるのでは、自分のアイデンティティをどこで保つのか、という議論もあります。そうした懸念についても、北欧のカルチャーから学ぶところはありますか。

岡田:北欧というか、フィンランドというべきかもしれませんが、僕がいつもベンチマークしているノキア(NOKIA)という会社があります。携帯電話メーカーとして世界一だった会社ですが、元々は長靴の会社だったんですよ。ゴム長靴です。

― そうなんですか、初めて知りました。

岡田:そうなんです。そのゴムの力を応用して、長靴だけでは生きていけないから、自動車が出てきたらタイヤの会社になり、テレビが出てきたらテレビの会社になり、パソコンが出てきたらパソコンの会社になり、携帯電話が出てきたら携帯電話の会社になった。それこそ、すさまじい変化をしてきているわけです。

だから、「AIによって考えなくなる」と言うけれど、考えさせるのをAIにするとしたら、じゃあ自分は何を提供するのか。本当に既定の問題だと思うんですよ。自分でそれをどう定義して行動するか、だけだと思っていて。まさに、いわゆるチェンジマネジメント(変革の管理)だと思うんです。ダーウィンの進化論みたいに、生き残れるのは強いものでも優秀なものでもなく、変化できるものだけ。そういう受け止め方をしていますね。

― AIは車やインターネット以上のインパクトとも言われます。その中でどう変化するかを自分で考えて行動できる人が集まり、組織として自走していく。それがHajimariの目指すところだ、と。

岡田:はい、そうです。やっぱり、変化は楽しむべきだなと思います。


ロゴスはAIに、エトスとパトスは人間に

― AI時代に、これからのエンジニアはどう学び、成長すればいいと思いますか。読者へのメッセージとしてお願いします。

岡田:人に言えるような偉そうなことではなく、全部自分向けなんですけど——「ロゴス・パトス・エトス」という言葉があります。人の心を動かすための3つの要素、アリストテレスですね。

このうちロゴス、つまりロジックに関しては、AIが代替できると思うんです。でも逆に言うと、AIができるのはロゴスだけだと思う。エトス(信頼)やパトス(共感)は、やっぱり人間しか与えられない。だから、人間に価値が残るエトスとパトス、そこにフォーカスして成長したいなと思っています。


学ぶべきは「上流」と「下流」——3つの上流スキルとFDE

― 技術という観点では、これからエンジニアは何を学んでいけばいいと思いますか。

岡田:技術で言うと、上流と下流を学んでいくべきだと思っています。

上流というのは、デザインや企画。それから、AIに投げかける「問い」の設定ですね。AIは答えは早いんですけど、解くべき問題は選ばないので。解くべき問題を与えるのは人間だと思うので、どういう問いを設定できるかが大事になる。

それと一緒なのが言語化です。お客さん自身も課題を感じているけれど、言語化できていないことがある。その、お客さん自身も言語化できていない課題を読み解いて、分析・分解して言語化する。本来コンサルタントが得意とする領域ですが、これからはエンジニアも鍛えていくべき能力だと思います。

もう一つが、非連続的なアイデア、発想力です。AIは過去の膨大なデータを学んで、それに連続する何かを提案してくるものなので、突飛な発想を浮かべるのは難しい。だから上流のスキルとしては、「課題を分析して言語化する力」「問いを設定する力」「非連続な発想力」の3つじゃないかなと思います。

逆に最下流の方は、品質ですね。最終品質を見極めて、お客さんとすり合わせて、最終的に出荷したものに責任を持つ。AIは責任を持てないので。一番入り口と一番出口の部分は、エンジニアとして鍛えていくべきだと思います。

― それは、もう世の中的にもそうなってきている、と。

岡田:そうですね。最近「FDE」という言葉をよく聞きます。Forward Deployed Engineer(フォワード・デプロイド・エンジニア:顧客の現場に常駐して課題解決にあたるエンジニア)ですね。本当にお客さんの現場に入り込んで、課題を分析して、実装まで行うエンジニアです。

このFDEという役職の求人が、1年前に比べてだいたい7倍ぐらいに増えているんですよ。OpenAIや、日本でもAIX、SmartHR、AI Shiftなど、いろんな会社がFDEをやっています。

だから、上流と下流をしっかりお客さんとコミュニケーションしてすり合わせて、ロジック(ロゴス)はAIに預けるとしても、信頼と共感(エトス・パトス)を持ってお客さんにデリバリーできる力が求められると思います。

― 従来は「いいプログラムが書ける」「この技術に詳しい」という専門性が価値でしたが、そこはAIがカバーする範囲が広がってきた。だからこそ、人間にしかできない部分が重要になる、と。

岡田:そうですね。だから本当に、ずっとお客さんと喋っているようなエンジニアでいいんじゃないかと思います。お客さんのオフィスにいて、ずっと喋って、「あ、こんなことに困ってるんですね」とその場でAIで作る。そういうスタイルが主流になっていくんじゃないかなと思います。


読者へのメッセージ——「失敗を恐れず、行動を」

― 最後に、AI活用に貪欲なエンジニアやビジネスパーソン、そして意思決定者に向けて、一言いただけますか。

岡田:これだけ変化が激しくて、先のことなんて誰にもわからないし、答えもない。でも、それに対して怖がっていたり、ただ不安に思っていたり、怖じ気づいているだけだと、わからないままなんです。だから、失敗を恐れずに行動していく。僕自身はそうありたいと思っています。そういうスタンスでやっていただきたいし、それに対して手伝えることがあれば、ぜひ一緒にやらせていただきたい。それがメッセージですね。

そして、技術的なHow toは、その瞬間はものすごく価値があるけれど、すぐに陳腐化してしまう。まさに“生もの”です。YouTubeでも3ヶ月前のHow to動画は、参考にならないからもう見なくてもいい。むしろ、普遍的なスタンスや考え方、マインドセットを大事にしてほしいですね。そこは変わりにくいものだと思うので。
(終)


プロフィール
岡田 幸紀(おかだ・こうき) 株式会社Hajimari 執行役員CTO
2000年より複数のテック企業で、北米・インド・ドイツとのソフトウェア共同開発をリード。2014年に単身フィンランドへ渡って開発拠点を新規設立し、離職率ゼロの海外チームを7年間運営、日本や各国のメディアに取り上げられる。2022年に日本へ帰国してGoogleにジョインし、日本企業のDX支援に携わる。パラレルキャリアとして複数のスタートアップのCTOを務めるなかで、現職に就任。信条は「『はたらく』とは『はた』を『らく』にすること」。