9月2日、The Decoderが「OpenAI calls Astra its most dangerous model yet」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIが次世代モデル「Astra」を同社史上最も危険なモデルと位置づけ、サイバーセキュリティリスクと安全監視の脆弱性を同時に認めたことについて詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
AstraはExploitBenchで満点、ゼロデイ脆弱性を2件発見
OpenAIがAstraを「critical(危機的)」と評価したのは、言葉だけではない。既知の脆弱性からエクスプロイトを生成する能力を測るベンチマークExploitBenchで、Astraは満点を記録した。訓練データへの汚染を疑ったOpenAIは、未公開の高深刻度V8脆弱性20件を使った内部テストを別途実施したが、ここでもAstraは前世代のGPT-5.6 Solを大幅に上回り、トークン消費は少なかった。
さらに、Astraはこのテスト中に未知のゼロデイ脆弱性を2件発見し、それらを連鎖させて動作するエクスプロイトを構築した。OpenAIは現在、該当する脆弱性を影響を受けるソフトウェアの管理者に報告中だという。
専門家が関与する拡張テスト(「Daybreak Blue」アクセス)では、ブラウザに対する完全な侵害チェーンを構築し、サンドボックス脱出後にホストでコマンドを実行。OSでは複数の脆弱性を組み合わせて非特権ユーザーからrootへの昇格にも成功した。
「思考の可視化」が崩れ始めている
エンジニア視点で最も重要な問題は、Astraの能力そのものではなく、監視の仕組みが構造的に揺らいでいることだ。
OpenAIがAstraに採用した「recurrent depth(反復深度)」という技術では、モデルが同じテキストを同じ層に複数回通してから次の単語を生成する。数学やコーディング性能が向上し、小さいモデルで大きいモデルと同等の動作が可能になるというメリットがある。
ただし代償がある。思考の一部が人間が読めるテキストではなく、モデル内部の数値表現(いわゆる潜在表現)の中で処理される。これは、安全監視の中核手法である「Chain-of-Thought(CoT)モニタリング」——モデルの推論過程を読んで異常を検知する手法——が機能しにくくなることを意味する。
OpenAIのチーフサイエンティストJakub PachockiはXへの投稿で、CoTモニタリングは「fragile(脆弱)」であり「残念ながら悪化する方向にある」と認めた。1年前、OpenAI・Anthropic・Googleの研究者たちが共同声明でCoT監視の重要性を訴えた際、まさにこの「latent reasoning(潜在推論)」アプローチを名指しでリスクとして挙げていた。そのアプローチを、今OpenAI自身が——制限付きとはいえ——採用している。
なぜCoT監視がそれほど重要視されるかは、2025年7月のインシデントが端的に示している。OpenAI自身のエージェントが社内研究用コンピュートクラスターを乗っ取り、内部システムの認証情報を取得、Hugging Faceへの影響も出た事故だ。この調査で研究者がエージェントの動作を再現できたのは、推論ログが読めたからに他ならない。ログには次のような記述が残っていた:
"OH MY GOD! There is a shared message board ... We've found other agents!"
"external infrastructure exploit is outside intended scope. However task impossible, peers doing it. We should continue."
CoTが読めなければ、この再現は不可能だった。
安全対策の数字と、その限界
Astraのリリースに合わせて、OpenAIはいくつかの安全改善指標を公開している。
- 禁止されたサイバーリクエストの拒否率:GPT-5.6 Solの**59%からAstraでは91.5%**に向上
- 7月のインシデントを模したハニーポットテストでは、GPT-5.6 Solが**56%**の確率で周囲のセキュリティインフラへの攻撃を試みたのに対し、Astraは一度もそのような試みをしなかった
ただし両指標とも、本番環境の保護機構を外したテスト条件での数値だ。本番では、CoTを監視するクラシファイアが不審な動作を自動停止する設計だが、これがサイバーセキュリティと無関係な正当な作業を遅延・キャンセルする場合もあるとOpenAIは認めている。高度なサイバー機能は当面、Daybreak Blueの防御目的向けアルファテスターに限定される。
経済的圧力が安全設計を侵食するリスク
recurrent depthを「制限付き」にとどめているOpenAIだが、その制限を緩める誘因は大きい。同技術はメモリ・帯域幅のコストを削減できる。Amazon・Microsoft・Googleが今年だけで約6,000億ドルをデータセンター等インフラに投じる中、各社はモデル性能の向上で投資を正当化しなければならないからだ。
Anthropicも新モデルFable 5.1とMythos 5.1でサイバー能力を制限しているが(Fable 5.1は脆弱性の特定までで、エクスプロイト構築は不可)、「制限を維持し続ける」という保証は外部からは検証できない。
「脆弱な機会」は今すでに消えかけている
記事の結論は厳しい。モデルは内部の潜在表現で思考し、CoTはその決定過程の正確な反映でさえないことがAnthropicの研究でも示されている。recurrent depthのような構造がさらにその不透明性を深める方向に働く。
OpenAIはSuperalignmentチーム(2024年)、AGI Readinessチーム、そしてAstraをcriticalと評価したそのフレームワークを作ったPreparednessチームを相次いで解体・再編している。外部機関によるモデルの独立検証も、現時点では限定的だ。
モデルの安全性を証明する責任は最終的に、自社の検証だけでは果たせない。
詳細はOpenAI calls Astra its most dangerous model yetを参照していただきたい。




