9月3日、Techstrong AIが「Fei-Fei Li's World Labs Debuts Atlas AI Model for 3D Simulation」と題した記事を公開した。スマートフォンで実際の場所を撮影するだけで、ロボット訓練用のシミュレーション環境が即座に生成される——コンピュータビジョンの先駆者Fei-Fei Liが共同創業したWorld Labsが発表した空間AIモデル「Atlas」は、専用機材も大規模データ収集も不要という点で、ロボティクス開発の現場に直接刺さる設計になっている。
ロボティクス向けPhysical AIの新展開
AIがどれだけ言語を理解しても、物理空間を「理解」しなければロボットは動かせない。World Labsが取り組むのはその課題だ。
ロボティクス開発において、実機を実環境に投入する前にシミュレーション環境での訓練・検証は不可欠だ。しかし「リアルな仮想環境」をどう調達するかは長年の難題であり、業界全体が多大なコストを費やしてきた。Google DeepMindはRoboCasaなどのシミュレーション基盤を整備し、OpenAIはロボティクス研究への再参入を表明、Unitreeや1X Technologiesといったロボットメーカーもシミュレーションデータの生成・活用に多額を投じている。World Labsが掲げる「スマホ映像からシミュレーション環境を生成する」というアプローチは、このデータ調達コスト問題へのひとつの回答として位置づけられる。
同社が発表したAtlasは、テキスト・画像・動画・3Dデータをまとめて受け取り、それらを「空間的なコンテキスト」として統合するAIモデルだ。単に映像を生成するだけでなく、カメラの幾何情報や移動軌跡を直接入力として扱えるのが特徴である。
Atlasの主要機能
1枚の画像から1分間の映像を生成
Atlasが示す能力の中でも特に目を引くのが、単一画像から最長1分間・解像度1440pの動画を生成するという点だ。しかも、元画像に映っていない死角エリアの映像まで生成できる(ただしこれは実際の視覚データに基づく再構築ではなく、モデルによる生成である点には留意が必要だ)。
Real-to-Sim:スマートフォンで撮影した場所をシミュレーション環境に変換
ロボティクス向けの用途として、World Labsが実演したのが「Real-to-Sim」ワークフローだ。開発者がスマートフォンで実際の場所を撮影し、それを仮想環境に変換する。シミュレーション上のロボットがその環境内を移動しながら、Atlasがロボットのセンサーが受け取るであろうRGB画像と深度情報を生成する。
専用の撮影機材なしに、スマートフォン映像からロボット訓練用のシミュレーション環境を構築できる点は、開発コストの観点から実用的だ。
3〜5台の通常カメラによるシーン再構築
Atlasは3〜5台の一般的なカメラで撮影した映像から、新しい視点の映像を生成できる。特殊な撮影システムは不要だ。
点群・深度マップ・3D Gaussian Splat出力
出力形式は従来の動画にとどまらず、点群(Point Cloud)、深度マップ、**3D Gaussian Splat**にも対応する。3D Gaussian Splatとは、シーンをガウス分布の集合として表現する比較的新しい3D表現手法で、ゲームエンジンやVFXツールとの親和性が高い。これにより、ゲーム、映像制作、設計、ロボティクスといった幅広い用途で活用できる。
アーキテクチャの概要
Atlasのベースとなるのはマルチモーダル自己回帰拡散トランスフォーマー(Multimodal Autoregressive Diffusion Transformer)アーキテクチャだ。拡散モデルとトランスフォーマーを組み合わせた設計で、空間情報をトークン単位で逐次的に生成しながら、過去のコンテキストを参照しつつ出力を段階的に精緻化していく。
※編集部の考察:元記事では「Autoregressive Diffusion Transformer」と表記されているが、この名称が指す自己回帰的な処理がトークン単位の逐次生成を含むのか、あるいはシーケンス全体を一括処理するのかについて元記事の記述は詳細を明示していない。技術的な正確な動作については、World Labsが今後公開するであろう技術レポートを参照されたい。
World Labsと業界内の位置づけ
World Labsは2024年にFei-Fei Liが立ち上げたAIスタートアップだ。Liはスタンフォード大学のAI Lab所長を務め、Stanford Institute for Human-Centered AI(HAI)を共同設立した人物で、ImageNetプロジェクトの主導者としても知られる。
同社はNVIDIA、AMD、Autodeskなどから総額12億ドルの資金調達を実施している。World Labsが掲げる「空間知能(Spatial Intelligence)」は、AIが環境や物理的なインタラクションを推論できるようにすることを目指すアプローチだ。
Physical AIと呼ばれるこの領域では、Google DeepMindがGemini Roboticsでマルチモーダルな身体制御を追求し、OpenAIもロボティクス分野への再参入を公表しており、競争は急速に激化している。World LabsのAtlasは「シミュレーション環境の生成」という上流工程に特化することで、特定プラットフォームに依存しない横断的なインフラ的役割を担い得る立ち位置にある。
提供状況
Atlasは現在、選定されたエンタープライズユーザー向けにアーリーアクセスで提供中だ。一般提供の時期は未発表。同社のプラットフォーム「Marble」の将来バージョンの基盤技術になることも予定されている。
詳細はFei-Fei Li's World Labs Debuts Atlas AI Model for 3D Simulationを参照していただきたい。




