9月3日、Wiredが「Meta Pushes Its New AI Agent on Employees」と題した記事を公開した。「スコアを稼ぐためにAIへ無意味なプロンプトを送り続ける」——そんな奇妙な行動様式を社員に生み出した「tokenmaxxing(トークンマキシング)」という概念が、今まさにMetaの社内で終焉を迎えようとしている。AIツールの利用量を人事評価に紐づける仕組みを廃止する一方で、自律型AIエージェント「Hatch」の社内展開を開始したMetaの動向は、企業がAI活用と社員の信頼をどう両立するかという問いを浮き彫りにしている。
「tokenmaxxing」の終焉
Metaはこの1週間、社内に大きく関わる2つの動きを同時に起こした。
ひとつは、AIツールの利用量を人事評価に反映させる仕組みの廃止だ。約1年前、Metaは社員を「AI-driven impact(AIによる成果)」で評価すると宣言した。実態はAIチャットボットやエージェントをどれだけ使ったかで測られ、使用量に応じて「AI Native」「AI First」「AI Enabled」といったラベルが付与されていた。
これが社内で生み出したのが、いわゆる「tokenmaxxing」と呼ばれる行動だ。トークンとはAIが処理するテキストの単位であり、社員はスコアを稼ぐためにAIツールに無意味なプロンプトを大量に送り込むようになった。ある社員は社内向けに利用量のリーダーボードまで作成し、上位者を「Token Legend」と称えたが、これが外部にリークされ、4月に削除されている。
今週公開された新しい評価基準では、「usage of AI(AIの使用)」や「AI Native」といった記述が撤廃され、「these outcomes can be supported by AI or other means(成果はAIによっても、その他の手段によっても達成できる)」という表現に置き換えられた。The Informationによれば、社内エンジニアに対しては「AIの導入ダッシュボードやトークン数で評価は行わない」と明示されたという。
Metaの広報担当Tracy Claytonは、今回の変更について「Metaが常に社員を貢献度で評価してきたことを改めて強調するものだ」とコメントしており、「AI Native」ラベルは人事評価に使われたことはないとも述べている。ただ、この発言は素直には受け取りにくい。評価ラベルが「使われていなかった」なら、なぜ今あえて評価基準の文言を改訂する必要があったのか。今回の変更はむしろ、tokenmaxxingという歪んだ行動を事実上公式に認め、軌道修正を図ったものと読むのが自然だろう。
一方で、7月に約20人の元社員が提起した訴訟では、育児・健康上の理由で休暇中だった社員がAI利用量を積み上げられず、5月の解雇で不当に不利益を受けたと主張しており、Metaはこの主張を否定している。
新AIエージェント「Hatch」とは何か
もうひとつの動きが、社内向けAIエージェント「Hatch」のテスト展開だ。
Hatchは、Webブラウジングや他のアプリケーションの操作を自律的に行える「エージェント型AI」で、OpenAIの「Computer Use」機能や、2025年初頭にX(旧Twitter)上で広く拡散されたデモ映像で注目を集めた「OpenClaw」(オープンソースのロボットアーム制御デモ。AIエージェントがGUI操作を自律実行する様子が話題になった)に近い性質を持つ。社員は過去数週間、公開前のHatchを社用デバイスでテスト中だ。
ただし、社員の受け入れには温度差がある。個人のメールやカレンダーとの連携を嫌がる社員が一定数いる。理由のひとつは、AIが重要な操作を誤るリスクへの懸念。もうひとつは、Metaが以前に実施していた社員のキーストローク等を記録するプロジェクト(現在は停止中)が社内の信頼を損なったためだ、と複数の現役社員はWiredに語った。
一方で、Hatchを積極的に使う社員もいる。「個人の予定の調整や日常生活の管理に使っている」という声も上がっており、ツール自体の有効性は認めているようだ。ただ、大量のトークン消費が伴う点について、環境コストや経済的なトレードオフを気にする声もある。
「AIで仕事を奪われる」という懸念は消えていない
評価基準からAI利用量が外れたことで、社員のモチベーション回復やHatchへの信頼醸成につながる可能性はある。しかし不安が完全に払拭されたわけではない。
Hatchが生産性向上の実績を残した場合、追加の人員削減につながるのではないかという懸念が社内に漂っている。先週、Reutersは「Metaが5月に削減した8,000人に加え、さらなる大規模リストラを準備していた」と報じた。ただし、AIへの依存に起因するソフトウェアのバグ増加と、エージェント開発の想定以下の進捗を受け、その計画は見送られたとされる。CEOのマーク・ザッカーバーグは、今年中の大規模解雇はないと明言している。
tokenmaxxingの圧力は消えたが、Hatchのようなエージェント型AIは従来のコーディング支援ツールよりも格段に多くのトークンを消費する。社員たちは「管理職はやはり、AIを使いこなせているかどうかを見ている」と認識しており、評価の構造は変わっても、AIとの向き合い方を問われる状況は続いている。
※編集部の考察:tokenmaxxingの廃止とHatchの展開は、一見矛盾するようにも映る。量的な管理をやめながら、より強力なAIツールを全社に浸透させる——この二つの動きは、Metaが「数字でAI活用を強制する」フェーズから「AIを使わざるを得ない環境を整備する」フェーズへと戦略を転換しつつあることを示唆しているのかもしれない。
詳細はMeta Pushes Its New AI Agent on Employeesを参照していただきたい。




