9月24日、Help Net Securityが「Claude.ai is about 3x faster after 3,000+ changes」と題した記事を公開した。AnthropicがClaudeに自社サービスのボトルネックを発見・修正させ、2週間で応答速度を約3倍に高めた取り組みについて詳しく紹介されている。
AIが自分自身のコードを直す——3,000件超のPRを2週間で
8月、AnthropicのエンジニアチームはClaude.aiおよびClaudeデスクトップアプリのパフォーマンス改善スプリントを実施した。2週間で3,000件超の変更をマージし、応答速度を約3倍に引き上げた。注目すべきは、ボトルネックの特定からベンチマークの構築、プルリクエストの作成、デプロイの監視まで、Claudeが担っていた点だ。人間のエンジニアは目標設定・判断・最終承認を行い、実装の大部分をAIに委ねた。
作業はSlackの1チャンネルから運用された。使用したのはClaude Tagベータ経由の内部リサーチモデルで、Opus 5.5相当とされる(Opus 5.5の発表については関連記事も参照)。ピーク時には150以上のスレッドが同時並行で走っていた。エンジニアのIsaac G.はブログにこう書いている。
「6か月前の自分には、これが可能だとは信じさせられなかっただろう」
また、3,000件超の変更にもかかわらず、ユーザー影響のあるインシデントやロールバックはゼロだったと報告されている。
計測の工夫——ウォールクロックを捨てて命令数で測る
パフォーマンス改善で見落とされがちなのが計測方法の選択だ。今回のスプリントで特に興味深いのは、Claudeが「何を基準に改善を判定するか」を変えた点である。
ウォールクロック(実経過時間)は実行環境のノイズが大きく、コードの善し悪しを判定する基準には不安定すぎる。そこでClaudeはCPU命令数などの決定論的な指標に切り替えた。あるホットパス(頻繁に実行されるコードパス)では、CPU命令数を48%削減することで実際の処理時間を78%短縮することに成功した。さらに、CIにチェックを追加し「命令数が増える変更は自動的に弾く」ようにしたことで、改善効果が後続の変更によって失われないよう担保した。
この「改善の劣化を自動検知する仕組みをCI側に組み込む」アプローチは、AIエージェントがCI/CDパイプラインを自律的に管理するという昨今の業界トレンドとも重なる。従来は人間がレビュープロセスで担っていたパフォーマンス回帰の検出を、自動化された仕組みとして恒久的に埋め込んだ点で、開発プロセスへの示唆が大きい。
emdashが1秒のフリーズを引き起こしていた
技術的に面白い話がある。コードブロックのシンタックスハイライト完了時、ページが約1秒フリーズする現象があった。原因の調査を進めると、犯人は「—」(emダッシュ)や「"」(カーリークォート)といったLatin-1範囲外の文字だった。
ChromeのJavaScriptエンジンV8は、文字列にLatin-1の範囲外の文字が1つでも含まれると、文字列全体をUTF-16として内部表現し直す。これによりシンタックスハイライトの正規表現処理が低速なパスに落ちていた。修正はわずか20行で完了したという。
「たった1文字の違いでエンジン内部の表現が切り替わり、全体のパフォーマンスに響く」というV8の挙動は、JavaScriptを扱うフロントエンドエンジニアには覚えておく価値がある知識だ。このケースは、AIが広大なコードベースを横断的に調査することで、人間が見落としやすい非直感的な根本原因にたどり着けることを示す好例でもある。
リスク管理——フィーチャーフラグを200本立てて半分を消した
3,000件超の変更を安全にリリースするための仕組みも整備された。リスクの高い変更は短命なフィーチャーフラグの裏に隠し、最もリスクの高いものは社内の従業員向けに先行ロールアウト。2週間で約200本のフィーチャーフラグを追加し、スプリント終了時には半数以上を削除していた。
フラグを使い捨てとして運用し、終わったら積極的に消す——この姿勢は、フィーチャーフラグが長期間放置されてコードの複雑度を上げてしまう問題(いわゆる「フラグ負債」)を防ぐ実践として参考になる。AIが大量の変更を高速に生成するほど、こうしたリスク管理の規律がより重要になる。フラグの追加と削除をセットで設計に組み込む姿勢は、AIを活用した高速開発を安全に運用するための基本原則といえる。
今回の事例は「AIを使った開発の効率化」という文脈を超え、AIがシステムの計測・修正・検証ループ全体を回す段階に入りつつあることを示している。Anthropicが公開した詳細なブログ記事には、具体的な手法が記されており、同様のアプローチを自社のCI/CDパイプラインに応用する際の参考になる。
詳細はClaude.ai is about 3x faster after 3,000+ changesを参照していただきたい。




