「学生を100人のFDEにする」 — 一見非現実的に見える目標を力強く語るのは、株式会社Central AX 代表取締役CEOの松浦氏だ。21歳、大学3年生である。
この野心的な目標を掲げるCentral AX CEOの松浦 淳氏と、同社顧問 / AIビジネスデザイナーの池上 雄太氏に、その戦略を語っていただき、FDEやAIネイティブな世界観、そしてAI時代がもたらす企業の変化について詳しく伺った。
学生をFDE化する — そもそもFDEとは?
── まずは自己紹介と、事業について教えてください。
Central AX CEO 松浦 淳氏: 株式会社Central AXという、AI導入を支援する会社を経営しております、松浦と申します。東海を中心に、AIの受託開発、AIコンサルと研修、それからSEOとAIO(AI最適化)をセットで提供するサービス。この3つを事業の柱にしています。
特に力を入れているのは、企業のAI化を伴走支援することですね。その要員として、学生をFDEとして活用していることが大きな特徴です。
Central AX 顧問 / AIビジネスデザイナー 池上 雄太氏: 私はCentral AXの顧問としてAIビジネスデザイナーを務めています。私自身もともとはForbes JAPANの立ち上げに携わっていて、次世代型のメディアビジネスのグロースを追求し、ビッグテックや大手コンサル、国内最大手事業会社や大手VCなどを顧客としたBizDevや、近年ではForbes JAPAN発のAIプロジェクトを牽引しています。並行して、2017年頃からAIスタートアップ企業のマーケティングやBizDevにも関わっていて、AI領域での業務経験は足掛けで10年近くになります。
── ありがとうございます。しかし、学生をFDEに…非常に面白いです。松浦さんのおっしゃる「FDE」とは、どう定義されているのでしょうか?
松浦: 大きく3つあると思っています。
まず、ClaudeやChatGPT、CopilotといったAIツールを、その人自身が使いこなせていること。
次に、それを組織に導入する際のつまずきポイントや難点を理解した上で、PMができること。
そして最後に最も重要な点が先方と話しながら進めるコミュニケーション能力があることです。
主にこの3つがFDEに求められる資質だと私は定義づけています。
FDE(Forward Deployed Engineer):クライアント企業の現場に入り込み、自社の技術を顧客の業務に合わせて実装していくエンジニア職。近年は日本の大手コンサルティングファームやAI企業も採用している
「Work IQ」を積み重ねるという戦略
── 貴社のFDE事業は具体的にどのようなものなのでしょうか。
松浦: 弊社は名古屋を起点にした会社ですが、まずは東海地方の中小企業の皆様に対して、伴走支援しながらAI化を進めています。
また、こうして得た現場の知識がAIのハーネスとして蓄積していくのが弊社にとっての強みであり、資産ですね。
例えば建設会社のA社に、初めてFDEとして入ったとします。そこには入札案件や外注など、建設会社さんならではの専門的な要素がたくさんあるわけです。そうした知識が弊社のハーネス、資産として蓄積されることで、他の建設会社様向けに横展開ができる。
AIツール自体はどんな企業でも使えますが、弊社にそうしたハーネスが蓄積されることで、同じAIツールでもまったく違った性能を発揮することができます。弊社では、そうして蓄積されていくナレッジのことを「Work IQ」と呼んでいます。
池上: Work IQという単語は、元々Microsoftさんの用語で、弊社ではそれを、FDE業務などから蓄積される業務知識や資産そのものを指す言葉として捉えています。
── FDEとしての業務そのものが、企業の資産形成にもなっていると。
池上: そうなんです。これまでのコンサルティングファームも、業務から得た知識を資産化してきたことが大きな強みだったかと思います。過去に導入してきた数千、数万の企業の実際の事例や経験が、組織の内部で共有知とされてきました。
ただ、コンサルティングファームでは、そうした共有知は「このイシューやタスクは、あの国のあの人がエキスパートだから、チームに入ってもらえるか、話を伺ってみよう」というような形で、属人的なケイパビリティが資産として積み上げられていました。弊社ではそれをAIネイティブなハーネスとして蓄積するので、属人性にはあまり依存しない。これがWork IQの実践であり、弊社の強みです。
ハーネス(harness):AIエージェントに外部ツールやデータ、作業手順を接続し、特定の業務をこなせるようにするための足回り。モデルそのものではなく、その周囲に組む仕組みを指す
Work IQ:Microsoftの定義では「エージェントが組織のデータ、コンテキスト、ツールにアクセスして推論できるようにする職場インテリジェンスレイヤー」。
社会人経験がない学生に、現場を任せられるのか
── 学生をFDEとしてクライアントの仕事に従事させるとなると、社会経験の浅さや、ドメイン知識の少なさが問題になったりしないのでしょうか。
松浦: 現在のところは、問題になっていません。
一つには、弊社が比較的規模の小さな企業を対象にしていることがあると思います。そうした企業の場合、伴走しながらドメイン知識を身に着けていくということが許容される。エンタープライズ企業だとこうはいかないと思います。
もう一つは、弊社にはAIに関する深い知識だけでなく、AIネイティブな感性や価値観があります。そうした感性や価値観が、クライアントの企業様にとっては非常に価値を感じて頂けている点なのかな、と思います。
── 「AIネイティブ」な感性や価値観を持っている、というのは具体的にどういうことなのでしょうか?
松浦: まず私個人としては、Claude Codeをリリース当日から触っていたというのが非常に強みになっています。19歳の頃でしたね。社会人としての経験を持たずに、純粋にAIと向き合い続けてきたことが、逆に大きな強みになっていると感じています。
またもう一つは、私が作ったCentral AXという会社ですが、「AIありき」で作ってみたんです。バックオフィスから専門的な分野まで、AIでできるところは全てAI化できる前提で構築しました。
元々ある環境をAIに対応できるように変えたのではなくて、Claude CodeやCodexを前提として会社を作った。本当の意味でAIネイティブな会社を作って運営することで、「AIネイティブな企業とは何か」を日々学べていますし、それをクライアント企業にも提案していくことができます。
池上: テクノロジーを活用するスキルや熟練度、それそのものが、ややもすると「技術負債」になっている場合が、特にAIが普及したあとの世界では多いんですよね。AIネイティブになるには、過去の古い技術スタックや業務スキルをアンラーニングするコストがかかる。そうした技術負債がない、という点が、Central AXのようなAIエージェントネイティブな組織の強みで。松浦CEOや近藤COOのスキルや知識、考え方は、すべてがエージェンティック(Agentic)なAI前提になっている。
── AIネイティブな企業を作ってみて、どんなことに気づきましたか?
松浦: そうですね…例えば「ここはAIに任せない方がいい」と言った感覚が磨かれてきます。逆説的ですが。
例えば日報ですね。理論上、AIで全部できちゃうんです。AIが、「今日何を操作したか」を全部調べ上げ、自動的にSlackに投げる、みたいなことは全然できる。
でも、AIが書いたってわかってる文章は誰も読まないんですよ。会社のメンバーはもちろん、書いた本人すら読まない。そうなってくると、日報のSlackチャンネルって全くの無駄なチャンネルになってしまいます。
自分の頭の中を整理したり、会社全体での情報共有を行うっていう、日報の意義を考えると、あえて人間がやったほうがいい。
── AIネイティブだからこそ、「何でもAIにやらせる」とはならないのが面白くて新鮮です。
松浦: はい。自社を実験台にしているおかげで、こういう経験を数多くこなしたことが、クライアント相手の業務でも非常に活かされています。
「学生100人FDE」をどう実現するのか?
── 改めて、「学生を100人のFDEにする」という構想について伺わせてください。
松浦: 2年以内に100人にする計画です。
そこでポイントとなってくるのは、まず最強の10人を作ることだと思っています。そこから全体の品質を保つというところが、1番重要です。
やっぱり「ほら、学生ではこれ無理だったでしょ」「この人に頼んだらやっぱりダメだ」みたいなところが、1番ダメなんですね。一度ついた印象というのは、悪い印象であれば覆すのが大変です。「今の若い子はすごいな。AI時代はこういう人材が求められていて、活躍できるんだ」という感覚を作り出すことが重要だと思っています。
── 人材の品質担保は、どういう風にされるのでしょうか。
松浦: 一番重要なのは、社内の教育システムですね。独自の教育コンテンツを社内展開していて、それを解くことで知識は身についていきます。
あとは経験ですね。最初は先輩FDEと一緒に現場に入り、徐々に独り立ちして、様々な業務に携わっていく。そのプロセスを1つ1つ踏むことが重要だと思っています。
── 10人から100人へのスケールには、どんな戦略がありますか?
松浦: 私自身が学生という立場でありながら、学生をFDEに育てていくという戦略自体、他の企業があまりできないことなので、スケールさせやすいと考えています。
一つは、大学生という立場を活かしたリファラルです。優秀な学生は、優秀な学生と繋がっていることが多い。そういうネットワークを通じて、優秀な人材を集めていく。
あと、実は大学に入ったばっかりの1年生とかも、全然戦力になるんです。私の経験では、1年生と4年生で、(少なくともAIに関する)知識に差はほとんどない。むしろ1年生の方が、受験勉強が終わって、まだだらけ切っていない時期だったりする(笑)そうやって、大学生全体をスコープに入れて人材探しをできるのは私たちの強みです。
── なるほど…現役大学生ならではの視点ですね。
AIネイティブな企業が勝つ。だから、AIネイティブな人材を育てたい
── 非常に興味深いお話でした、ありがとうございます。最後に、読者に向けて一言お願いします。
池上: マッキンゼーのシンクタンクや世界経済フォーラムも指摘していることですが、AIスキルの「半減期」は、加速度的に短くなっています。
そのため、既存のテック前提の設計思想の延長線上で企業をAI化しても、導入したツールやスキルが来年にはもう古くなって陳腐化する…というようなワーストケースシナリオが、これから数多く浮上してくるでしょう。組織そのものをAIネイティブに作り替えていないと、毎年のように「新たなAIツール導入をどうするか?社員やリーダーのリスキリングはどうしよう?」という議論が、組織の内部で繰り返されることになる。
陳腐化が早い領域だからこそ、積み上げた過去の経験値が「ない」側が持つ、独自の新しい価値や優位性がある。AI前提、「Agentic AIネイティブ」に設計された組織が勝ちやすいのは間違いないのです。
松浦: 毎日のように新しいAIの情報が更新され続けていく中で、ぼくらはAIネイティブな立場から、ずっと技術や情報をキャッチアップし、実際に試して、知見を蓄積しています。
社会人の皆さまが、普段業務を行いながらAIを学ばなければいけないのに比べると、日進月歩で更新されるAIのキャッチアップ能力は明確にぼくらのアドバンテージだと思っています。
そうして得た知見を活かして、AIネイティブな企業をもっと増やしたい。東海の会社さんにAIを導入しまくって、AIネイティブな企業を増やしまくれば、GDPが1%ぐらい上がるんじゃないか…と本気で思っています。
そのためにも、AIネイティブな人材を育て、FDE100人は一刻も早く達成したいですね。それが日本のためになると本気で思っています。
プロフィール
松浦 淳(まつうら じゅん) 株式会社Central AX 代表取締役CEO。大学3年生、21歳。19歳でClaude Codeのリリースに触れ、以降2年にわたりAIエージェントの変遷を追い続ける。AI活用を前提とした組織設計でCentral AXを創業。東海圏を中心に、中小企業のAI導入支援(AX)を手がける。
池上 雄太(いけがみ ゆうた) 株式会社Central AX 顧問 / AIビジネスデザイナー。Forbes JAPANの事業成長を創刊直後より牽引する中で、先端領域のビジネスカンファレンスやコンテンツの統括プロデューサーとしてテクノロジー領域のエグゼクティブマーケティングに従事。またAI系企業のマーケティングおよびビジネスデベロップメントにも約10年の経験を有する。現在は次世代AIスタートアップのグロース支援やAXコンサルティング活動を多方面に推進。




